水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

愉快なユーモア短編集-90- 無駄

2018年11月20日 00時00分00秒 | #小説

  一見(いっけん)、無駄に見えることでも無駄ではないことがある。というか、無駄・・ということは何もないと言った方が適切だろう。たとえば、何度も失敗を重ねる人を他人が見た場合、無駄だからやめた方が…と思わず声をかけたくなるに違いない。だがしかし、である。当の本人は無駄ではない! と信じて続けているのだ。さらに、他人がそう思ったあとで、ものの見事に出来てしまうことだってあるのだ。この場合は当然、無駄ではない。よしんば、結局、出来ず、徒労(とろう)に終わったとしても、決してその努力は無駄ではないのだ。なぜなら、その努力は忍耐力という形で次の行動や思考へステップする一助(いちじょ)になるからである。
 とある会社の営業課である。一人のショボい男が、この日も契約が取れず、ショボく帰ってきた。
「ははは…また、ダメでしたか。こんなこと、私が言うのもなんですが、もう、アソコはやめられた方がいいんじゃないですか? 無駄ですよっ! ええ、無駄っ!」
 小口(こぐち)ながらも契約を幾つも取り続ける、課のダントツ[断然、トップ]男は張られた掲示板の棒グラフを見ながら上から目線で言った。
「はあ…でも、私は取れそうな気がするんです。もう少し頑張ってみます」
「そうですか。あんな大口(おおぐち)は私らの会社じゃ無理なように思いますがね」
「はあ、そうなんでしょうが、とにかく私は続けますっ!」
 そしてひと月が経ったある日の夕方、ショボい男はウキウキと帰ってきた。
「ついに契約、取れましたっ!」
「エエ~~ッ!!」
 まさか、という顔で課の全員がショボい男を見た。当然、棒グラフはダントツだ。その日以降、課では取れない契約が取れるようになった。
 無駄は決して無駄ではないという一例である。^^

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愉快なユーモア短編集-89- 減価償却(げんかしょうきゃく)

2018年11月19日 00時00分00秒 | #小説

 この世のものは、すべてではないものの、ほとんどの物が傷(いた)んだり磨耗(まもう)して使えなくなっていく。この事実は見える映像、見えない心理を問わず共通している。この磨耗を減価償却(げんかしょうきゃく)という。人が成人以降、年を取るにつれて肉体的[足腰が弱るなど]や精神的[ピュアさが消えるなど]に少しずつ老いていくといった例がそうだ。
 選挙が終わった次の日である。偶然、出会った二人の買い物客が店の前で立ち話をしている。
「終わりましたなっ!」
「はあ、終わりました。…まあ、読み筋どおりでしたが…」
「そうですな、寂しい限りです。ますます保守的になりました…」
「というか、政治が減価償却して、受け皿がないっ!」
「そうそう、対立軸がなけりゃ保守になりますわな」
「っていうか、政治を諦める・・みたいなっ!」
「ですなっ! となれば、投票より買い物とか? ははは…」
「私らですなっ! ははは…」
「永田町は草だらけっ!」
「まあ、草だらけじゃないかも知れませんが、二→一毛作くらいに減価償却してますかなっ! はっはっはっ…」
「はっはっはっ…」
 二人は馬鹿馬鹿しい! と言わんばかりに愉快な笑い声を上げた。
 減価償却すれば、勝つことが必ずしも勝ちとはならない・・ということだろうか。^^

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愉快なユーモア短編集-87- 秋霖(しゅうりん)

2018年11月17日 00時00分00秒 | #小説

 秋も半ばになると、シトシト・・と雨が降り続く日々が続くようになる。格好よく言えば秋霖(しゅうりん)だ。まあ、秋晴れがいいに決まっているが、これには一つの理由がある。干し柿が乾かず、黴(かび)たり水分が抜けずベチャベチャに溶けて下へ落ちてしまうからだ。^^ やはりお日さまの光がないと万物は潤(うるお)わず、愉快な気分になれないという話になる。余り降り過ぎるのは、過ぎたるは及ばざるが如し・・で、万事休す! となるのである。
 とある競馬場である。今度こそ万馬券を当てようと遮二無二(しゃにむに)、馬券を買い続ける一人の男がいた。この男がそうなったのには一つの理由があった。というのも、いつもは必ず出資額以上、儲(もう)けて帰っていたからである。ところがこの日はどうしたことか、買えども買えども勝てなかった。恰(あたか)もジトジトと降り続く秋霖のように、この男の不愉快な気分は鬱積(うっせき)していった。天はこの男を見放したかに思えた。そして、いよいよ最終レースとなった。
「ぅぅぅ…」
 レースが終ったとき、順位が確定した電光掲示板を見ながら男は秋霖のようにさめざめと泣いていた。大ハズレだった。ところが、である。
「んっ?」
 男の目の前にヒラヒラ・・と誰かが捨てたと思われる一枚のハズレ馬券が飛んできた。男はその馬券を手にして驚愕(きょうがく)した。
「おおっ!!」
 驚くなかれ、そのハズレ馬券は当たり馬券だったのである。しかもそれは、万馬券だった。男は愉快な気分で北叟笑(ほくそえ)んだ。その途端、男は卒倒し、病院へ担(かつ)ぎ込まれた。その後、男がどうなったかまで、私は知らない。
 そんなことで・・でもないが、秋霖よりは、やはり秋晴れの方がいいようだ。^^

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愉快なユーモア短編集-86- 連鎖(れんさ)

2018年11月16日 00時00分00秒 | #小説

 連鎖(れんさ)とは影響が鎖(くさり)のように連(つら)なって繋(つな)がる状態を指す。分かりよい例では食物(しょくもつ)連鎖がある。植物性プランクトンを動物性プランクトンが食べ、動物性プランクトンを小海老や小魚などが食べ、それをまた大きな魚が愉快な気分でおいしいおいしいっ! と思っているかは定かでないが、とにかく食す・・という連鎖である。この現象は人間社会でも形を変え、横行している。
 とある小さな町工場である。朝から社長を含め社員数人が必死に紙コップを作っている。ガチャガチャと賑(にぎ)やかな機械音がする中、油汚れがないか検品する作業員二人が馴(な)れた手つきで次々と検品していく。
「どうなんだい、アレはっ?」
「ああアノ話か…。社長次第さっ! どっちにしろ、ここは食われっちまうだろうな…」
「食われっちまうって?」
「ああ、パクリっ! となっ! 大資本には勝てねぇ~ってことよ」
「ということは、●○紙業か△凸パックスってことかっ?」
「ああ…。そのいずれもが凹◎紙器に吸収されちまうってんだから怖(こわ)い話さ」
「連鎖だな…」
「ああ、連鎖、連鎖っ!」
「まあ、俺達は大丈夫かっ? ははは…」
「だなっ! ははは…」
 二人は愉快な気分で笑いながら作業を続けた。
 連鎖は怖いが、現場は割合と安定しているのである。^^

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愉快なユーモア短編集-85- とにかく、やるっ!

2018年11月15日 00時00分00秒 | #小説

 結果がどうであれ、とにかく、やるっ! という心意気がこの世では肝心だ。やれば、成功、不成功は別として、自(みずか)らが納得できる。納得できれば、心残りなく次の行動へと移れる・・という上向きのスパイラルで、いっそう活力が出るというものだ。やらねば何の変化もなく、物事は良い悪いの関係なく収束(しゅうそく)の方向へと進むのが常だ。収束する方向がよければ問題はないが、悪い…と見込める場合は、とにかく、やるっ! のがいい。
 とある病院である。大げさな一人の力士が負傷し、喚きながら担(かつ)ぎ込まれた。担ぎ込まれた・・というほどの負傷でもなかったのだが、力士に言わせれば担ぎこまれた・・となる。担ぎ込まれた病院の医者と力士は、古くからの付き合いだった。
「先生、大丈夫ですかっ!」
「関取も大げさですなぁ~! たかが肩の打身(うちみ)くらいでっ!」
「打身くらいって、先生。万が一、折れでもしていたら、どうすんですっ!?」
「どうもしませんよっ! あなたも力士なら、とにかく、やるっ! この心意気でなくっちゃ!」
「人ごとだと思って…」
「なにか言った?」
「いや、べつに…」
「まあ、とにかく、やるっ! か…」
「ええ、是非(ぜひ)っ!」
 一時間後、力士は特大のシップ薬の袋を片手に下げ、愉快な笑顔で病院を出て行った。
 とにかく、やるっ! と、周囲を得心させることが出来るのである。^^

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愉快なユーモア短編集-84- 立候補者

2018年11月14日 00時00分00秒 | #小説

 選挙戦たけなわである。朝から選挙カーが絶え間なく道を横切っている。野畑は昨日(きのう)の残業の疲れもあってか、目覚めていなかった。それでも選挙カーの流れとウグイス嬢の名調子はとどまるところを知らず、野畑を半(なか)ば起こそうとしていた。
「禿山(はげやま)滑(すべる)でございます! 朝早くからご町内をお騒がせいたし、誠に申し訳ございません」
「禿山でございます。今回の立候補に臨み、多くの方々から暖かい応援を頂戴いたしております。感謝を申し上げます。禿山は今回も頑張ります。より一層(いっそう)、頑張る覚悟でございます。皆様方の清きご一票を何卒(なにとぞ)、この禿山に賜(たまわ)りますよう、重ねてお願いを申し上げますっ!』
 ウトウトと眠っている野畑の耳にも、その声は、はっきりと聞こえていた。『滑るなよっ! ムニャムニャ…』そんな気分の野畑だったが、睡魔は野畑をふたたび眠りの世界へと誘(いざな)っていった。いつしか野畑は夢を見ていた。外では現実と同じように、選挙カーが絶え間なく走っていた。どういう訳か野畑はその選挙カーを雲の上から歯を磨(みが)きながら見ていた。
「獅子(しし)でございますっ! 獅子トウガラシでございますっ! 獅子トウガラシがピリッと辛(から)く、朝のご挨拶(あいさつ)に伺(うかが)っておりますっ! 獅子でございますっ! この獅子に清きご一票を賜りますよう、何卒、よろしくお願いを申し上げます。美味(おい)しくいたしますっ! 皆様方のご家庭で美味しく召(め)し上がっていただきますっ!」
 そのとき、フッ! と野畑は目覚めた。すでに、選挙カーの音は消えていた。だが、刹那(せつな)見た夢は、野畑の脳裏(のうり)に鮮明に残されていた。
「そういや、昨日、シシトウの天麩羅、店で食べたな…」
 野畑は思わず愉快な気分となり、ニヤリとした。
 立候補者は美味(おい)しいほどいいようだ。^^

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愉快なユーモア短編集-83- 染(そ)まる

2018年11月13日 00時00分00秒 | #小説

 人には他に影響を受けて染(そ)まりやすい人とまったく染まらない人がいる。まあ、普通は適当にその場だけを合わせる・・といった、染まった素振りを見せたり、軽く影響を受けても、いつの間にか忘れてしまい、本来の自分へ戻(もど)ってしまう・・といった中庸(ちゅうよう)の人が大半だ。映画を見たあと、その主役になりきって映画館を出てきた人が数日後は元の自分に戻っている・・といった話が典型的な例である。
 会社ビルの前で、退社直後のサラリーマン二人が歩きながら話し合っている。
「ははは…まあ、いいじゃないかっ!」
「ダメなんですよっ、先輩! 僕、すぐ染まる体質なんですから…」
「ははは…染まりゃいいじゃないかっ! 染まって染まって染まりまくれっ!!」
「はい! でももう、染まってるんです、例の娘(こ)にっ!」
「ああ、あの娘かっ! かなり君に迫ってたからなぁ~。君だって満更(まんざら)でもなかったじゃないかっ!」
「ええ、まあ…というか、もう、ゾッコンなんですっ! これ以上、染まると、危険が危ないんです」
「なるほどっ! 危険が危ないか。ははは…愉快な話だっ! 俺は大丈夫だなっ、そっち方面はっ! だがな、俺も最近、染まっているものがあるにはあるっ!」
「先輩が、ですかっ? なんですっ?」
「パチンコっ!」
 後輩は、セコいなっ! とは一瞬、思ったが、口には出さず、笑って暈(ぼか)した。
 人は何に染まるか分らないのである。^^

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愉快なユーモア短編集-82- いい結果

2018年11月12日 00時00分00秒 | #小説

 誰もが自分のやった行動の結果を気にする。当然のことだが、悪い結果を望む者は誰もなく、いいに決まっている。いいと、自己満足ながらも愉快ないい気分に人はなれる。これから物事をやろう! としたとき、その物事の上手(うま)くいく可能性が小さければ、どうだろう? 果たして、結果が悪い可能性が高いにもかかわらず、人は果敢(かかん)に動くのだろうか? ここに、人それぞれの違いの妙味(みょうみ)が生まれてくる。なせばなるっ! 的な発想の人は、どういう訳かいい結果が生まれる公算が高い。問題は何が何でもっ! と思う、その意識の強さにある。強ければ強いほど、いい結果となる。不可能を可能とすることさえあるのが、その意識の強さだ。日本史に登場する桶狭間で今川の大軍を撃破した織田軍などはその典型的な例である。
 ここは、とある選挙対策本部である。敗色濃厚の中、一人の候補者が痒(かゆ)くもない頭をボリポリと掻(か)いていた。
「先生っ! どうしましょう!」
「なにを言っとるんだっ! それを考えるのが君達、参謀(さんぼう)だろうがっ!」
「はあ、それはそうなんですが…。すでに、手は尽くしましたっ! もう、打つ手がっ! あと二日しかありませんっ!」
「ははは…だから君達は甘いんだ。まだ二日もあるじゃないかっ! これから敵の地盤を突き崩せば勝機は必ずあるっ!」
 それまで頭をボリボリ掻いていた手を止め、候補者は人が変わったような落ち着いた声で頭を撫でつけた。
「はいっ!!」
 選挙事務所に拍手と笑声が沸(わ)き起こった。このとき、選挙事務所の雰囲気が一変(いっぺん)したことを誰も知らない。雰囲気は誰の目にも見えないからだ。^^
 二日後、即日開票の結果、その候補者は不利な情勢を跳(は)ね除(の)け、見事に当選していた。
 意識の強さがいい結果を招(まね)いた愉快な例だ。^^

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愉快なユーモア短編集-81- 常識(じょうしき)

2018年11月11日 00時00分00秒 | #小説

 常識(じょうしき)は、常識、上敷(うわし)き、畳(たたみ)、とも言われ、^^ 日常の世間で通用する規範(きはん)のようなものだが、強制力のある法律などとはいささか趣(おもむき)を異(こと)にする。いわば、変人に思われないための曖昧(あいまい)な概念(がいねん)である。世間の大多数が常識とすることは、少数の人々がやったり、やろうする違ったことを非常識とする。そのことを直接、口に出す人もあるが、変な人! …などと思うだけの人が大部分を占(し)める。だが、この常識が非常識な概念であることを多くの人々は分っていない。それは間違った概念が多くの人々の常識となっている場合だ。
 ポカポカ陽気の小春日和(こはるびより)、二人の老人が木陰(こかげ)の縁台(えんだい)で将棋を指(さ)している。
「ははは…なるほど、そういう手がありましたかっ!」
 思ってもいない奇抜(きばつ)な手を指された老人は、指した老人の顔を一瞥(いちべつ)すると、悔(くや)しそうな声でそう言った。
「ははは…常識ですよっ!」
「そうですか?」
「ええ、ええ。お知りじゃなかったんですかっ? 世間の愛好家なら百人が百人とも、こう指しますよっ!」
 笑顔で自身ありげに指した老人はそう返した。
「はあ…」
 ほぼ、負け将棋に思えた瞬間、指された老人の頭に非常識な手がフッ! と浮かんだ。指された老人は駒をビシッ! と盤上へ叩(たた)きつけた。これが必死となる妙手(みょうしゅ)で、勝負は大逆転した。
「… ま、参りましたっ!」
 残念そうに、常識を指した老人は負けを認めた。
 常識が非常識となった愉快な例の一つである。^^

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愉快なユーモア短編集-80- 四角四面(しかくしめん)

2018年11月10日 00時00分00秒 | #小説

 四角四面(しかくしめん)・・とは、四面がすべて四角い真四角のエリアのことだが、そんなところから、まじめ過ぎて堅苦(かたぐる)しく融通が利(き)かないことを指す言葉である。ただ、四角四面はいい場合もある。堅いだけあって、その分、出すぎたり歪むこともないから、結果として元へ戻しやすいのである。柔らかいと確かに全(すべ)てのことに溶け込んで変化できるからいいが、元へ戻すとなると、これがどうしてなかなか厄介(やっかい)で、出来にくい難点があるのだ。だから四角四面の人物は、潰(つぶ)しが利かない半面、いざというときの安全装置・・とでもいえる存在となる。むろん、普段は余り役に立たない堅物(かたぶつ)として、周囲の評判はよくないだろう。^^
 ここはとある会社のとある課である。朝から課長以下、課員全員がとある重要書類を血眼(ちまなこ)で探し回っていた。
「お、おいっ! まだ、見つからんのかっ!!」
「は、はいっ!」
 課長の矢糸(やいと)は、係長の藻草(もぐさ)に叱咤(しった)するような声で叫んだ。
「アレがないと、わ、私はクビになるかも知れんのだぞっ!」
「わ、分かっておりますっ! き、君、そっちの書類棚はっ!?」
「はいっ! もう、探しましたっ!!」
 OLの家牟田(けむた)はバタバタとあちこちを探し回りながら息を切らせて言った。書類を提示する会議が始まる時間は刻々と近づいていた。そのとき、課長の矢糸の目に、まったく微動だにせず落ちついて机に座る四角四面な男の姿が映った。課員の氷場(ひば)である。
「お、お前っ!! 私がクビになってもいいのかっ!}
 矢糸の切れた声が氷場をめがけて飛んだ。
「えっ? いえ…」
「だ、だったら、さっさと探せっ!!」
 矢糸は完全に切れていた。
「探す必要はないと思いますっ! 重要な書類だと思いましたもので、僕が昨日(きのう)、会議室の机へ置いときましたっ!」
 氷場は落ちついた声ではっきりと返した。
「そっ! …」
 それを早く言わんかっ! とも言えず、矢糸はホッとしたこともあり、フロアの上へフラフラとへたり込んだ。
 四角四面は、やはり四角四面で、愉快な結果を招(まね)くのである。^^

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする