水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

愉快なユーモア短編集-79- 先細(さきぼそ)り

2018年11月09日 00時00分00秒 | #小説

 体重の異常増加は別として、^^ 先々(さきざき)の予想は先細(さきぼそ)りではなく太くありたいものだ。将来予測が先細りだと、これはもう戴(いただ)けないし困る事態である。元々(もともと)、細々(ほそぼそ)を旨(むね)としたり生業(なりわい)にしている人々は別として、誰しも先細りをしたくないからこの世で頑張っている訳だ。この場合、ダイエットで先細りしたい人は例外となる。^^
 二人の論客(ろんきゃく)がテレビ討論をしている。
「いやいや、日本の将来は、このまま行けば先細りですよっ!」
「そうですかねぇ? 私は先太りだと思いますが…」
「先太り? あなたじゃあるまいしっ!」
「私じゃあるまいし? どういうことですっ! 私の体系(たいけい)は関係ないでしょ!」
「… ああ、それは関係ないですが、ともかく先細りなんですっ!」
「なぜですっ!?」
「すべてが使い捨て感覚ですからねっ!」
「それは言えますっ! 部品在庫期間が10年だったり!」
「ええ、修理できませんから買い替えて下さい! ですから。ははは…」
「そうそう! アソコなら修理してくれる…っていう自社製品のアフターケア精神が国際信用力ですよねっ! 部品在庫センター部門でも作りゃいいんですよっ! その発想がないと、これからの低成長の時代、やはり先細りですか? ははは…」
 対立していた二人の論客は、いつの間にか先太りしたかのように愉快な笑い声で意気投合した。^^ 
 総(すべ)てに言えることだが、先細りを止めるためには、発想の転換が大事なようだ。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-78- 担(にな)い手

2018年11月08日 00時00分00秒 | #小説

 公私、善悪を問わず、様々(さまざま)な組織を統帥(とうすい)する[束(たば)ねる]担(にな)い手は、その力量(りきりょう)が試(ため)されることになる。その器(うつわ)でない者が組織を統帥すれば、シッチャカメッチャカとなり、組織は乱れたり分裂を余儀なくされる訳だ。多かれ少なかれ組織が大きくなればなるほど、考え方が違う幾つものグループが生じるのは当然で、やむを得ない。組織の担い手は、この幾つもの考え方の違いを超える絶対的な信任がなければ永(なが)く君臨(くんりん)することが出来ない。考え方が多少、異(こと)なっても、ああ、あの方ならっ! …と、全会一致へ持ち込めるオーラを秘めた実力者・・それが真の担(にな)い手となり得る存在なのである。
 とある婦人会の会場で、役員の選挙が行われている。二人のしゃべくりマダムが小声で雀(すずめ)の囀(さえず)りのようにチュクチュク、チュンチュンと話し合っている。  
「そうよねっ! 豚丘(ぶたおか)さんなら、間違いないんじゃないかしらっ!」
「あなたもそう思うでしょ? 牛窪(うしくぼ)さんは少しお高く留(と)まってらっしゃるように思えるわっ!」
「そうなのよっ! 和風のお着物は素敵なんだけど、お高いのよねぇ~。もう少しお安く、いえっ! お低くされれば申し分ないんだけど…」
「なんか見下されてるようなところがあるじゃない。それが腹立たしいのよねっ!」
「ええ…。新しい担い手にはねぇ!」
「そう! だから豚岡さん」
 しばらくして壇上の選管(せんかん)から選挙結果が報じられた。
「開票結果は以上の通りです。よって、新会長は鳥滝(とりたき)翼(つばさ)さんと決定いたしました」
 会場から満場の拍手が起こり、鳥滝が座席から立ち上がり、笑顔でお辞儀した。雀のような二人のしゃべくりマダムは予想外だったからか、焼き鳥にされたように押し黙った。
 担い手は手頃な価格、いや、手頃な人が愉快な気分になれていいようだ。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-77- 失敗

2018年11月07日 00時00分00秒 | #小説

 神や仏でない以上、程度の差こそあれ人に失敗は付きものだ。となれば、問題は失敗のあとの処(しょ)し方となるだろう。自暴自棄になり、その後のやる気をなくす者もいれば、冷静に失敗の処理をしてやり直したり、その後の方法を考えたりする者など、各人(かくじん)各様(かくよう)に変化を見せることになる。
 とある美術大学である。粘土で塑像作りをする二人の生徒を、指導する教授が見守っている。
「…申し訳ないが、それは失敗だろうな。初めからやり直したほうがいいぞっ!」
「えっ? どうしてですか、教授?」
「ははは…私の耳はそんなにでかくないっ!」
「そうですかぁ~? このくらいだと思うんですが…」
「馬鹿野郎! それは象の耳だろっ!!」
 教授は失敬なヤツだっ! とムカついた。
「いや、失敗とは思えません。このまま続けますっ!」
「…」
 教授は瞬間、勝手にしろっ! とは思ったが、そうは言わず、もう一人の生徒の方へ歩(ほ)を進めた。ところが、もう一人の生徒は作っては崩(くず)し、作っては崩しを続けていた。
「どうしたの?」
「ああ、教授。いいところまでは出来るんですが、その先がいけません、いけません! 教授じゃないんです」
「…私じゃないのかいっ?」
「ええ…。なんとなく、教授モドキで、納得いかないんですよ…。ああ! これも失敗だっ!」
 もう一人の生徒は、ほぼ完成した教授像を崩そうとした。教授には寸分、違(たが)わないほど自分に酷似(こくじ)した名作に見えた。
「ああっ! 待った!! これでいいっ!」
 教授は思わず崩そうとする学生の手を止めた。
「ええ~~っ! これは、失敗でしょ、教授!」
「いやいや、ちっとも失敗じゃないっ! 大成功!」
 教授には一瞬、自分が崩される…と思えたのである。
「そうですかぁ~?」
「ああ…」
 失敗と成功は紙一重(かみひとえ)の感じ方の違いなのかも知れない。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-76- 姿(すがた)

2018年11月06日 00時00分00秒 | #小説

 一度(ひとたび)家の外へ出ると様々(さまざま)な動きが姿(すがた)を見せる。姿とひと言では言えるが、それには音も加味(かみ)されているから多種多様(たしゅたよう)となる。そこへ飛び込むように一人の人物が加わるのだから大変だ。それまでの社会の姿+一人の人物といった新しい構図が生まれる訳だ。その人物が上手(うま)く世の中に馴染(なじ)めばスンナリと物事は流れるが、その逆を辿(たど)れば乱れを生じることになる。
 ここは、とあるファミリーレストランである。行きつけということもあり、淺川(あさかわ)は、いつものように閉店間際の店へと入っていった。そしていつものお決まりの席へ座ろうとした。ところが、もう客などいないはずの席に一人の男が座っているではないか。それに淺川が妙に思えたのは、テープル上に食器や皿などがなく、その男が食べた痕跡(こんせき)すらないことだった。さあ、どうしたものか…と瞬間、淺川は躊躇(ためら)った。自分の思い描いていた店の姿が予期せず違っていたからだ。淺川にすれば時間的なものも含め、当然、店内は誰もいなくなっていて、自分はその席へドッカ! と座るはずだったのである。それが、どんな偶然か、先客がいた。いや、それだけならまだしも、自分がいつも座るお決まりの席へ座っているのだ。さあ、どうしたものか…と淺川が思うのは必然だった。まあ、それでも座っているものは仕方がない。淺川は愛想笑いをしながら頭を下げた。
「やあ! もう閉店ですよっ! ここの常連さんですかっ?」
「? ああ、どうも…。私、ここの客じゃないんですよっ。この店のオーナーなんですがね。この席のテーブルが傷(いた)んでるから修理して欲しいって店主から電話がありましてね。それで夜、遅(おそ)く、具合を見に寄せてもらったというようなことで…」
「ああ! そういうことでしたか。傷み、といいますと?」
 そう言いながら、淺川は仕方なく近くの空(あ)いた席へ腰を下(お)ろした。
「ここなんですがね…」
 男が指で示したテーブルの隅(すみ)には細かな無数の傷が見えた。そのとき、淺川はハッ! とした。自分の無意識な癖(くせ)でつけた傷だったのである。
「…ああ! ははは…」
 淺川は思わず暈(ぼか)して笑った。これではとても自分の席だから他の席へっ! などと言えたものではない。[1]客ではなく店のオーナー、[2]自分がつけた傷というダブルの障害が立ちはだかったのだ。
 自分が無意識で描いている姿は案外、本人には分りにくいものなのだ。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-75- 三温四寒(さんおんしかん)

2018年11月05日 00時00分00秒 | #小説

 夏の暑気が遠退(とおの)くと、やがて楚々(そそ)とした風情(ふぜい)で秋の気配が忍び寄る。当然ながら気温も少しずつ下がり始め、人々はやれやれ…と安堵(あんど)の息を一つ吐(は)くことになる。その頃も過ぎ、やがて彼岸の声を聞くようになると、僅(わず)かながら肌寒さを肌に感じる季節の到来(とうらい)だ。三温四寒(さんおんしかん)である。三寒四温(さんかんしおん)はメジャーによく遣(つか)われる言葉だが、三温四寒とは誰も言わない。三寒四温は中国北部や朝鮮半島に見られる気象で、初春の頃、寒い日が三日ばかり続き、そのあと暖かい日が四日ほど続く現象から派生した言葉だそうだが、その逆の三温四寒も当然起こり得るのだ。
 小春日和(こはるびより)の中、ご隠居二人が縁側(えんがわ)に座り、寛(くつろ)いでいる。
「いやぁ~、過ごしやすくなりましたなっ!」
「ええ、ええ。左様(さよう)で…。しかし、ここ数日、俄(にわ)かに朝晩が冷え込んできましたが…」
「三温四寒の始まりですかな、ははは…」
「なんです? その三温四寒というのは?」
「ははは…三温四寒は三温四寒です。三寒四温があるんですからその逆もあり・・と思っとります」
「なるほど! それは言えるかも、ですなっ! ははは…」
 二人のご隠居は茶を啜(すす)りながら菓子を頬張(ほおぱ)り、愉快な笑い声をあげた。
 三温四寒は目には見えず、忍者のように楚々と皆さんの周囲へ忍び寄るのである。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-74- 精鋭(せいえい)

2018年11月04日 00時00分00秒 | #小説

 何も数が多いからといって勝てたり、結果がよくなるものではない。要は数の質(しつ)の問題・・ということになる。分りやすく言えば、数が少なくても質がよければ、数が多くて質が悪いものに勝(まさ)る・・ということだ。この質がよいものを精鋭(せいえい)という。むろん、この精鋭にも限界はあるのだが…。精鋭だとしても、少な過ぎれば本能寺でアウトとなる史実のとおりだ。その逆で桶狭間もあるが、これは精鋭で成功した史実である。
 ここは、とある会社の社長室である。専務が呼ばれ、応接椅子で二人が話し合っている。
「いやぁ~社長!! いくらなんでも、それは無謀(むぼう)過ぎますっ! 相手は名うての大手、黒腹(くろばら)グループですよっ!」
「ははは…だから、いいんじゃないか、君(きみ)っ!」
「と、言われますと?」
 専務は社長の意図が分らず、訝(いぶか)しげに訊(たず)ねた。
「分らんかねっ? 相手はたかが小企業だ・・と油断しているっ! 相手のメイン取引先を落とせば株価は暴落、一巻の終わりだっ!!」
「なるほど…、しかし、いい手立てが…」
「ははは…すでに手は打ってある。我が精鋭部隊によるミッション・インポッシブルが始まっているのさ。まあ、来週を楽しみにしていてくれたまえっ!」
「はあ…」
 専務は意味不明のまま頷(うなず)く他はなかった。
 そして、一週間が巡った。
「しゃ! 社長っ!」
 社長室に朝刊を持った専務が叫びながら飛び込んできた。
「ははは…だろ?」
 社長はすでに結果が分っているからか、優雅に笑った。
 精鋭のミッションは愉快なほど、もの凄(すご)いのである。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-73- 風向(かざむ)き

2018年11月03日 00時00分00秒 | #小説

 風向(かざむ)きを読むことは重要で、それによって物事は成功へと近づく。目敏(めざと)い人は風向きを読む力に長(た)けていて、まあ、ほとんどの場合、失敗がない。だからという訳ではないが、友人を選ぶとすれば、風向きが読める目敏い人・・ということになる。むろん、それが人生を共にする、よりよきベターハーフなら申し分ないということなのだが…。^^
 農作業が終わった、とある山間地の田園である。二人の農夫が収穫後の田畑の整地をしている。棚田(たなだ)が散開(さんかい)する急勾配(きゅうこうばい)の土地柄(とちがら)からか、作業はもっぱら人力のみで行われ、うず高く盛られた稲藁(いなわら)へ、今,まさに火が点(つ)けられようとしている。そのとき、一人の農夫が叫んだ。
「ちょ、ちょっと待った!!! 今日は、やめよう!!」
「? どうしてだっ!?」
「雲の動きが早くなった! それに、向こうの空を見てみろやっ!」
 風向きが読める農夫が指さした空には、いつの間に湧(わ)き出したのか、黒雲(くろくも)が広がりを見せようとしていた。黒雲は風を伴(ともな)っていた。
「降るのかっ?」
「いや、まず降らねぇだろっ。だがよぉ~、風向きがよくないっ!」
「?」
「風向きからすりゃ、山へ炎が流れ、山火事になるぞぉ~!」
「…だなっ! やめだ、やめだっ!」
 ようやく分かったのか、風向きが読めなかった農夫は火を点けるのを思い止(とど)まった。その後しばらくして、二人は村へと引き上げた。うず高く盛られた稲藁の横には風向きが読めた農夫の稲藁帽が忘れられていた。
 風向きが読めることと忘れやすいこととの因果関係は、まったくない。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-72- 風通(かぜとお)し

2018年11月02日 00時00分00秒 | #小説

 植物でも人でもそうなのだが、風通(かぜとお)しがよくなると気分もよくなる。ものを言わない植物の場合、幹(みき)に小さな枝[彦バエや胴吹きバエ]が出て幹の風通しが悪くなると、湿気が籠(こ)もりやすくなり、病害虫に侵(おか)され易(やす)くなるが、『ちょっと、ご主人! 刈って下さいよっ!』とも植物は言えず、気づかれないまま偉いことになる。ものを言う人の場合、風通しはまた、別の意味でも遣(つか)われる言葉である。
「課長! 小耳(こみみ)に挟(はさ)んだんですが、どうも大きな異動があるようですよっ!」
「おお、そうかっ! 役員達の考えは内部の風通しをよくしよう・・という腹だなっ!」
「ええ、どうもそのようです…」
「そうかっ! いや、どうも有難う。鋏(ハサミ)で切られんようにせんといかんなっ…」
「はあ?」
「いや、なんでもない…」
 盆栽が趣味の鍬形(くわがた)の頭に、ふと浮かんだのは、昨日(きのう)やった剪定(せんてい)だった。樹形を整えるため、細かな枝を随分と切り捨て、さっぱりとした樹形にしたのだが、切った枝が一瞬、自分に思えたのである。
「君なんか、これからだから大事にされるだろうが、俺なんかの年になるとな。…まあ、いいっ!」
「課長くらいの年になると、なんなんですっ!?」
 部下の蕪土(かぶと)は詰め寄るように詰問(きつもん)した。
「ははは…刈り込まれた挙句(あげく)になっ、ゴミで捨てられるのさっ!」
「ははは…、またまたっ! 冗談がきついっ!」
「ははは…まあ、そうだがっ!」
 否定して顔では笑ったが、鍬形の内心は怯(おび)えていた。先だっても友人の課長が子会社へ出向(しゅっこう)という形で飛ばされたのだ。早い話、風通しをよくするため、バッサリと切られたのである。
 風通しよくされれば普通の場合、気分はいいのだが、愉快な気分になれないこんな逆のケースもあるのだ。^^

                                 


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愉快なユーモア短編集-71- やり遂(と)げる

2018年11月01日 00時00分00秒 | #小説

 最後までやり遂(と)げよう…と思う心構えは大事だ。どうしても時間の都合とかで中途半端になってしまいがちだからである。誰だって思い通りにやり遂げられれば、愉快な気分になれるだろう。だが、そう上手(うま)く世の中はいくものではない。何かと突発的な障害が生じるからだ。
 とある旅行会社である。一人の年老いた客が若い社員と話している。
「どうしたんですかっ! さっきは大丈夫だって言ってたじゃないですかっ!」
「ええ、それはそうなんですが…。何かのトラブルで発券できないようなんですっ!」
 若い社員は目の前の専用パソコンを前に弱り果てながら言った。
「それを何とかするのが、あんたの仕事でしょ!」
 年老いた客はイラついて返した。
「はあ、そうなんですが…。なんとか、やってみます」
「ああ、何が何でもやり遂げて下さいっ! やり遂げられれば、いい旅行社だって近所に宣伝しますよっ!」
「何もそこまでしていただかなくても…」
「いや、宣伝しますっ! うちの町内には旅行したいお年寄りがワンサカいますからなぁ~」
「はあ、さよですか…」
「はいっ! だが、それはやり遂げられれば、のニラレバ炒(いた)めですがなっ! はっはっはっ!」
 年老いた客は笑いながら豪快にそう言い捨てた。若い社員は、あんたのことなんだから、笑ってる場合じゃないだろっ! とは思えたが、そうとも言えず、黙って頷(うなず)いた。
 その後、20分ばかり、若い社員とパソコンとの格闘続き、ついに、そのときが来た。
「や、やりましたよっ、お客さまっ!!」
「おっ! そうですかっ! あんた、偉(えら)いですねっ! 約束どおりやり遂げたんだから、ご近所に宣伝しときますよっ!」
「ははは…それは、いいですからっ!」
「いやいや、約束なんだからっ! あんた、商売っ気(け)がないっ! そんなこっちゃ出世できないですぞっ!」
「はあ、心します…」
 若い社員は厄介(やっかい)な客に捕(つか)まったなぁ~…と心でぼやきながら発券を終えた。
 年老いた客が帰ったあと、一部始終を見聞きしていた課長が若い社員に声をかけた。
「あのお客さん、なかなかいいこと言ってたなぁ~」
「そうですか? 僕、ああいう手合いは苦手(にがて)なんです」
「いやいやいや、あの方の言うとおりだっ! やり遂げる・・かっ。いい言葉だっ! 私もそう思う…」
「さよですか。いえ、そうですか、心します…」
 やり遂げる・・という前向きな心が、すべてを可能へと導(みちび)き、愉快な気分にさせるようである。^^

                                 


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