水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

愉快なユーモア短編集-80- 四角四面(しかくしめん)

2018年11月10日 00時00分00秒 | #小説

 四角四面(しかくしめん)・・とは、四面がすべて四角い真四角のエリアのことだが、そんなところから、まじめ過ぎて堅苦(かたぐる)しく融通が利(き)かないことを指す言葉である。ただ、四角四面はいい場合もある。堅いだけあって、その分、出すぎたり歪むこともないから、結果として元へ戻しやすいのである。柔らかいと確かに全(すべ)てのことに溶け込んで変化できるからいいが、元へ戻すとなると、これがどうしてなかなか厄介(やっかい)で、出来にくい難点があるのだ。だから四角四面の人物は、潰(つぶ)しが利かない半面、いざというときの安全装置・・とでもいえる存在となる。むろん、普段は余り役に立たない堅物(かたぶつ)として、周囲の評判はよくないだろう。^^
 ここはとある会社のとある課である。朝から課長以下、課員全員がとある重要書類を血眼(ちまなこ)で探し回っていた。
「お、おいっ! まだ、見つからんのかっ!!」
「は、はいっ!」
 課長の矢糸(やいと)は、係長の藻草(もぐさ)に叱咤(しった)するような声で叫んだ。
「アレがないと、わ、私はクビになるかも知れんのだぞっ!」
「わ、分かっておりますっ! き、君、そっちの書類棚はっ!?」
「はいっ! もう、探しましたっ!!」
 OLの家牟田(けむた)はバタバタとあちこちを探し回りながら息を切らせて言った。書類を提示する会議が始まる時間は刻々と近づいていた。そのとき、課長の矢糸の目に、まったく微動だにせず落ちついて机に座る四角四面な男の姿が映った。課員の氷場(ひば)である。
「お、お前っ!! 私がクビになってもいいのかっ!}
 矢糸の切れた声が氷場をめがけて飛んだ。
「えっ? いえ…」
「だ、だったら、さっさと探せっ!!」
 矢糸は完全に切れていた。
「探す必要はないと思いますっ! 重要な書類だと思いましたもので、僕が昨日(きのう)、会議室の机へ置いときましたっ!」
 氷場は落ちついた声ではっきりと返した。
「そっ! …」
 それを早く言わんかっ! とも言えず、矢糸はホッとしたこともあり、フロアの上へフラフラとへたり込んだ。
 四角四面は、やはり四角四面で、愉快な結果を招(まね)くのである。^^

                                 


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