あんたはすごい! 水本爽涼
第百八回
その休暇となる前日は仕事納めで、この日は昼までの半ドンだった。、私は仕事もそこそこに、退社時間を待ちかねて監視室へと下りた。しかし監視室に禿山(はげやま)さんの姿はなく、一度も見たことがない三十代前半の年若な警備員が座っている姿が見えた。思わず近づくと、私は訊ねていた。
「あのう…、禿山さんはどうかされたんですか?」
「えっ? ああ、禿山さん? 禿山さんでしたら風邪で当分、休まれますよ。上手い具合に明日から会社がお休みですしね」
若い警備員は軽い口調で淡々と云った。何が上手い具合に、だ! と、寝込んでおられる禿山さんを小馬鹿にしたような軽さに少し怒れたが、自然と冷静になれたのは、やはり玉の霊力が私を救ってくれたからに違いない。自分でも不思議なほど穏やかな気分が私の全身を包みこんだのである。
「恐れ入りますが、禿山さんのご住所とか、分かりませんかねえ」
「ああ…それなら分かりますよ。ちょっと待って下さいよ。ああ…ここだ。云いますよ…」
警備員は社員手帳をペラペラと捲(めく)り、メモってある部分を探し当てた。
「はい! どうぞ」
私は背広上衣から手帳を取り出し、備え付けの受付用ボールペンを握った。
第百八回
その休暇となる前日は仕事納めで、この日は昼までの半ドンだった。、私は仕事もそこそこに、退社時間を待ちかねて監視室へと下りた。しかし監視室に禿山(はげやま)さんの姿はなく、一度も見たことがない三十代前半の年若な警備員が座っている姿が見えた。思わず近づくと、私は訊ねていた。
「あのう…、禿山さんはどうかされたんですか?」
「えっ? ああ、禿山さん? 禿山さんでしたら風邪で当分、休まれますよ。上手い具合に明日から会社がお休みですしね」
若い警備員は軽い口調で淡々と云った。何が上手い具合に、だ! と、寝込んでおられる禿山さんを小馬鹿にしたような軽さに少し怒れたが、自然と冷静になれたのは、やはり玉の霊力が私を救ってくれたからに違いない。自分でも不思議なほど穏やかな気分が私の全身を包みこんだのである。
「恐れ入りますが、禿山さんのご住所とか、分かりませんかねえ」
「ああ…それなら分かりますよ。ちょっと待って下さいよ。ああ…ここだ。云いますよ…」
警備員は社員手帳をペラペラと捲(めく)り、メモってある部分を探し当てた。
「はい! どうぞ」
私は背広上衣から手帳を取り出し、備え付けの受付用ボールペンを握った。