水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第百回)

2010年10月04日 00時00分01秒 | #小説

  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百回
しかし、その嫌な気分も、すぐにふっ飛んだ。ひとまず背広のポケットへ入れた携帯が激しく震動し始めたのである。当然のことで、着信音が出ないようバイブにしてあったからだが、私は急いで携帯を耳にした。
「あのさあ…今、書くもの、持ってる?」
「え、ええ。云って下さい…」
「そぉ~う? じゃあ、云うわよ」
 私はママが云った電話番号を、手持ちの名刺の裏へメモった。
「助かります。どうもお手数をおかけしました。また寄りますので…」
「まあ、満ちゃんだからね、サービスしたのよ。忘れた頃に寄るんじゃないわよ! ほほほ…」
 嫌味で釘を刺したママだが、多忙のため、ここのところみかんに行けてなかったのは確かだった。それはともかく、首尾よく沼澤氏の電話番号を聞き出せた私は、さっそく電話をかけようとした。その時、運悪く私の前枠のドアが開き、誰かが入る音がした。小ならまだしも大だから、これは手間どるなあ…と判断した私は、トイレから撤収することにした。緊急を要する! ということでもなく、まあ、昼休みにでも屋上でかけるか…と、この場は一端、断念したのである。
 昼はすぐにやってきた。いつもは行きつけの店へ出るのだが、この日は行かず、社員食堂で軽く済ませて屋上へのエレベーターボタンを押した。


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残月剣 -秘抄- 《残月剣③》第十一回

2010年10月04日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣③》第十一
 「それはそうとして、掻い摘んで話して下さいよ、お願いします。簡単でいいですから…」
「そうか…。だったら要点だけ云っておくか。後は直接な。先生がここのところ、少しお加減がお悪いということでな…」
「えっ!!」
 左馬介は驚愕の余り、絶句した。
「いや、命がどうのこうの、というご容態ではない、との話だったがな」
「今、樋口さんは、どこに?」
 一瞬、長谷川は沈黙した。そして、
「影番だから、足は摑めそうで摑めんぞ」
 と、左馬介に釘を刺した。
「いえ、そういう積もりはないんですが…」
「ならば、俺が云ったので充分だな」
 左馬介は以前、幻妙斎のことで樋口が道場へ寄った時のことを思い出していた。その時の申し合わせでは、幻妙斎に何かの異変があれば必ず知らせる…ということだった。ということは、樋口が直接、左馬介に知らせていないのだから、幻妙斎の加減は長谷川が語るほどのことではないように思える。


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