水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第百二十回)

2010年10月24日 00時00分02秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百二十回
だが、瞑想(めいそう)の途中に声をかけるというのも憚(はばか)られ、私は静かにドアを閉じた。
「これは…、塩山さんでしたか。来られることは玉のお告げで分かっておりました。しかし、予想より三十分ほど早かったですなあ」
 沼澤氏は座禅の姿勢を崩さず、そのまま両の眼を静かに見開いて云った。
「なんだ…お気づきでしたか。いや、実は私も玉のお告げがあったのです。会館へ行きなさい、って云われまして…」
「ほう…、すでに塩山さんにも霊力が宿ったようですなあ。この前、お会いした時は、すごく気になさっておられましたが…」
「いえ、今も気にはなっているんです。っていうか、この先、自分がどうなるかという漠然とした不安は相変わらず有ります。それに、異変が今後、起こるとして、それがどういう内容か、ということも…」
「そう気になされず、自然に身を任せればよろしいでしょう。明日(あした)は明日の風が吹くと…」
「はい、そうすることにします。それにしてもお告げが初めて会った時は驚きましたよ」
「ははは…そうでしたか。この前、お電話で自覚できるのかって心配されておられましたが、そのような次元の低い話でないことは、お告げを体験され、分かって戴けたと思います」
「はあ、それはもう…」
 思わず私は、そう答えていた。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣③》第三十一回

2010年10月24日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣③》第三十一

「おお…そのことか。儂(わし)も歳ゆえなあ。ははは…樋口も、かつての儂の姿が残っておるのであろう。この獅子童子と同じで、すっかり老いてしもうたからのう」
 そう云い終え、幻妙斎は何とも優雅な含み笑いをした。心配をかけまいと、身体の不調を隠してのことなのか、将又(はたまた)、幻妙斎が今、話した通り、単に年齢によるものだけなのか…、その辺りの真(まこと)が掴めない左馬介であった。しかし、流石にそう思うのだが…とは云えはしない。師の言動に疑念を抱くことに他ならず、更には、師を信じられぬ、と諸に云うようなものだからだ。幻妙斎に合わせて笑ってはみせたものの、次の話に行き詰る左馬介であった。それもその筈で、左馬介が幻妙斎と茶を飲みながら長話をしたことなど、かつてなかったのだ。ふたたび静寂が訪れようとしていた。その時である。障子戸の向うで声がした。左馬介には聞き覚えがあった。
「喜平でございます。お開けして宜しゅうございましょうか?」
「おお…主(あるじ)か。構わんが…」
「ほん今、鰻政の鰻が届き、お運び致しました」
「そうか…。どうじゃ、左馬介。そなたも食していかぬか?」
「いえ、私は食べて参りましたので…」


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