水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第百十四回)

2010年10月18日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百十四回
「いや、そう身を乗り出されても、それ以上のことは今の私には分りません。沼澤さんなら話は別ですが…。なにせ、沼澤さんは霊術師をされているんですから」
「えっ? そんなもんで食えるんですか? いや、そんなもんと云ったのは撤回しますが、…しかし、やはり、そんなもん、ですなあ…」
「それが週二回、眠気(ねむけ)会館で教室を開いておられるんですよ。会員も結構、入っているようでして、当然、実入りもそれなりに…」
「そうですか…、教室をねえ。まあ、十人十色と云いますからなあ」
「そうなんですよ。以前の私と今の私の違いのようなもので、不思議な体験をお持ちの方は信じますよねえ」
「塩山さんも、その口でしたな?」
「はい…。沼澤さんから二度ほど、あんたはえらい! と云われ、その頃から自分は普通の自分ではないのだ、という先入観に苛(さいな)まれ、無意識のうちに信じているようです」
「いや、それはそれで結構なことだと思いますよ。霊力で人類のヒーローになって下さい」
「いやあ、とんでもない! そんな大それた者にはなれませんが…」
 私は謙遜して否定したが、内心では全否定していなかった。ひょっとすると、私は人類のヒーローになるよう、玉に選ばれた逸材かも知れない…と思えてくるのだった。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣③》第二十五回

2010年10月18日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣③》第二十五回
「葛西の千鳥屋におられる。山上懇意にしておるし、五郎蔵一家との騒動のこともあり、主(あるじ)、喜平の肝煎り宿でな、宿賃無用
という訳よ」
「それは好都合で…」
「葛西の町医者が時折り、薬草を持って診に参るがな。霞飛びで、
消えられることもある」
 そう云うと、樋口は相好を崩した。
「樋口さんは、やはり使い走りですか?」
「それは、今迄もそうだったからな。影番はお役御免になるまで続
くだろう…」
 樋口と話すと、いつも枝葉末節に話が流れる。結局、緊急を要するほどの容態でないことは左馬介にも分かった。しかし、樋口が来た状況を冷静に考える限り、幻妙斎の容態は前回のように尋常でないことは確かなのだ。ここは一度、先生のご様子を見に行かねば…と左馬介は思った。
 樋口は左馬介と暫く世間話をした後、長谷川や鴨下に挨拶することなく帰っていった。稽古場へ戻ると、二人はもう止めたとみえ、いなかった。一人、稽古場にいても仕方ないから、左馬介も面防具と竹刀を元あった所へ戻し、稽古場から退去した。


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