水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

それでもユーモア短編集 (46)空腹

2019年04月25日 00時00分00秒 | #小説

 人は食べないと腹が減る。この空腹となる現象に十人十色(じゅうにんといろ)の違いはない。誰もが同じように空腹となる構造に人の身体(からだ)が出来ているからだ[ダジャレではない^^]。空腹なのに、それでも食べないでいるのは身体に余りよくない。夜に食べれば悪いとかよく言われるが、朝型の人のバイオリズムでの話で、取り分けて夜型の人に悪いということではない。それより、空腹のときに食べるのが一番、身体によく、食べないと悪いらしい。身体が生理的に食べることを要求する・・それが空腹という現象らしい。かといって満腹になるまで食べる・・というのもよくないらしい。━ 腹八分目 医者いらず ━ の格言めいた言葉どおりではある。^^
 一人のサラリーマンが昼の二時過ぎ、フラフラと社員食堂へ駆け込んだ。
「おばちゃんっ! 何でもいいから、すぐ食べられるものっ!!」
 見れば、空腹で今にも倒れそうだ。
「どうしたのよっ! 飯盛(いいもり)君」
「落城寸前なんですよっ!」
 そう言いながら、飯盛は崩れるようにテーブル椅子へ、へたり込んだ。
「落城寸前?」
「ええ、落城寸前の白虎隊っ!」
「なに言ってんのよっ! しっかりなさいっ!」
「ぅぅぅ…あと30分、仕事、切り上げるべきだった!」
「そんな大げさなっ! はい、お水!」
 食堂のおばちゃんは、水の入ったコップを飯盛が座る前のテーブルへ置いた。
「ああ、これでひとまず五稜郭(ごりょうかく)っ!」
「五稜郭?」
「はい、五稜郭。水だけではいずれダメでしょうが、ひとまずは…」
「なるほど…。チャーハン定食ならキャンセル分があるけど、それでいい?」
「いい、いいっ! もう、なんでもいいですっ!! それでも…まさか、桜田門外の変ってことは?」
「あるわきゃないでしょ!!」
「食中毒・・あるわきゃですよねっ! ははは…これで明治維新だっ!」
 食堂のおばちゃんは笑いながら黙って頷(うなず)いた。
 やや冷えてはいたが、それでも飯盛は、置かれたチャーハン定食を貪(むさぼ)るように食べ始めた。
 残り物であろうとなんだろうと、空腹になれば、それでも人は食べて生き続けるのである。^^

                                  


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