代役アンドロイド 水本爽涼
(第90回)
「じゃあ、ONにして自由に動いてみてくれたまえ。上手く動けたら、一周してきて欲しい。聞くところによれば一周、650mだ」
「分かりました」
保は腰をかがめて、両足のスイッチをONにした。そして歩き始めると、次第に保の足はローラースケートのように滑らかに走行し始めた。いや確かに、それは歩行というよりは走行そのもの、といった動きだった。100mほど保が走行したとき、教授が叫んだ。
「よし! そのまま、GOだっ!」
保は、いとも簡単に速度を早めると、視界から消え去った。そして、しばらくすると、反対側から戻ってきた。矢のような速さとは、まさにこのことか…と所員は皆、思った。もちろん、沙耶も分析システムを起動させ、そう感じていた。
「微細な制動をかける自動感知機能がポイントなんですよ」
沙耶が訊(たず)ねた訳でもないのに、教授は自慢口調で説明した。
『そうですの。すごいですわ』
沙耶は会話システムの同調を選択した。
「丁度、競争馬に乗る騎手の手綱の塩梅(あんばい)です」
『脚先の微細な感覚が手綱なんですね。でも、ぶつかりそうになれば危険ですわね』
「いや、お嬢さん、その心配は御無用です。障害物感知センサーが瞬時に働いて、自動停止しますから…」
『なるほど…。でも故障ってことも、あり得ますわよね』
保は元の位置へ戻り、スムースに停止した。
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