水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

雑念ユーモア短編集 (61)番組

2024年05月01日 00時00分00秒 | #小説

 観る気もしない…と思う間もなく、初老の猪屋(いのや)はテレビのリモコンを押し、テレビ画面が映った瞬間に切った。なぜかと言えば、映った映像が悪かったからである。猪屋のテレビが4K、8Kではなく、鮮明度が悪かった・・という理由ではない。猪屋の嗜好(しこう)に合う番組ではなかった、という理由だ。^^ 猪屋が雑念を巡らすことなく、瞬間に切ったのは、猪屋の頭脳が番組を嫌悪したからである。
『なんだ…飲んで食って楽しんでるだけじゃないかっ!』
 猪屋にすれば、自分は貧相な冷えたコンビニ弁当を買ってきて、それを電子レンジでチンして食べながら寂しく画面を観ているのに、画面に映った番組の出演者達は賑(にぎ)やかに笑いながら高級料理を食べ、酒を飲んでいたからである。猪屋の頭脳はそのギャップに拒否反応を示したのである。
『最近はコノ手のバラエティ番組が多いな…』
 猪屋はジックリ味わえる中高年向けの番組を地上波で観たかったのである。食べ終え、コンビニ弁当をゴミ箱に捨てに行こう…と思うでなく立った瞬間、猪屋は地上波にしていたことに気づいた。
『なんだ、地上波だったか…。BSなら何かやってるだろう…』
 気を取り直し、インスタント・コーヒーを飲みながら、猪屋はBS放送で観ることにし、もう一度、リモコンを押した。映った番組は懐かしい映画番組だった。
『コレ、コレッ!!』
 猪屋の頭脳は瞬間、OK!!! のVサインを出した。猪屋が観たかった映画がタイミングよく映ったのである。猪屋はその映画番組を観ながら、地上波もこんな番組流さないかな…と欠伸(あくび)をしながら思った。CMで映画が途切れた瞬間、猪屋は眠くなり、番組を録画して続きは明日観ることにし、寝室へ向かった。
 猪屋さんが雑念を巡らせたように、もう少し中高年が観たい番組を地上波でも増やして欲しいものです。^^

                   完


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