残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《教示②》第二十一回
叱責はいいとしても、今一つ、幻妙斎の云わんとすることが解せない左馬介であった。
「今日は疲れたであろう。陽が沈まぬうちに早う帰って休むがよい」
少し怒ったので宥(なだ)める積もりなのか、幻妙斎は優しく言葉を閉ざした。辺りはふたたび静寂に覆われ始めた。左馬介は岩棚にを仰ぎ見て一礼し、洞窟を退去した。既に陽は西山の一角に没しようとしていたが、妙義山の中腹からは、未だ暮れ泥(なず)んで見え隠れしていた。
その後、左馬介に課せられる幻妙斎からの指示は途絶えた。左馬介はその都度、幻妙斎に修行の開始と終了を告げるのみで、それに対し、首を縦に振り了解の意を伝えるのみの師であった。隔日とはいえ、妙義山へ出向く修行は、駆けては叩き斬り、また駆けては叩き斬る日々の連続であった。だが上手くしたもので、二ヶ月ほど経つと、その要領というものが自ずと備わり、最初の頃よりか四半時ほどは短く回峰出来るようになっていた。それは決して左馬介が、こうしたのだ…と、師に告げられるものではなかったが、以前より機敏に動けるようになったとは、自身も思える左馬介であった。