≪脚色≫
春の風景
(第八話)♪ 鯉のぼり ♪ <推敲版>
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
○ 湧水家の外景 朝
風に靡いて泳ぐ鯉のぼり。
正也M「宙天にヒラヒラと泳いでいるのは僕の家の鯉のぼりだ。勿論、鯉のぼりは僕の家だけでなく、ご近所のあちこちでも泳いでい
るのだが…」
○ メインタイトル
「春の風景」
○ サブタイトル
「(第八話)♪ 鯉のぼり♪」
○ 離れ 朝
宙天高く翻る、庭に立てられた鯉のぼり。渡り廊下に座りガラス戸から眺める恭之介と正也。
正也 「じいちゃん、この鯉のぼりは、いつ頃からあるの?(単に、鯉のぼりを見上げて)」
恭之介「ああ、これなあ…(鯉のぼりを、しみじみと見上げて感慨深そうに)。そう、あれは正也が、まだ二つの時だったなあ、確か…」
正也 「フ~ン…(興味なさそうに)」
云った後、チマキを美味そうに頬張る正也。
正也M「最近の都会ではチマキなどというものは食べないのだろうが、僕達の田舎では普通に作られ、普通に食す。よ~く考えれば、
自然の息づく田舎で人間は育てられてきたように思える」
恭一が庭で吹く、下手なハーモニカの音がする。
正也M「父さんが上手いと自負して吹くハーモニカの音が、♪ 鯉のぼり ♪の小学唱歌を奏でて庭から流れてくる」
恭之介「あいつは、ちっとも上達せんなあ。アレ、ばっかりだ!」
離れと母屋の取り合い廊下の方から聞こえる未知子の声。
[未知子] 「お義父さま! お茶、置いときます…」
恭之介「ああ…、未知子さん、すみません!(声高に)」
正也M「じいちゃんは母さんに星目風鈴・中四目を置いている。一目、置く…とは、よく云うが、これだけ置く人はそうざらにはいないだろ
うと思える。伊達に蛸頭を照からせている訳ではないな…と、敬いつつ見上げた」
ハーモニカの音が止む。未知子が廊下に置いた茶盆を持って離れへ入り、渡り廊下に座る恭一。
恭之介「おお、恭一か…」
恭一 「バスで行ったのが正解でした。出歩いた日中は多少、暑かったですがね。渋滞とか詰め込みは関係なかったですから…」
恭之介「ほお、そりゃよかったな。たまには、夫婦水入らずも、いいもんだろう」
正也M「今日のじいちゃんはチマキが効いて機嫌がいい。これなら、じいちゃんにチマキを毎日、食わせておきゃ…とも考えられるが、
とても実現はしないだろう」
恭一が運んだ茶をフゥーフゥーと冷ましつつ飲む恭之介。真似てフゥーフゥーと飲む正也。得意満面にポケットからハーモニカを取り
出す恭一。それに気づく恭之介。
恭之介「恭一、もういいから、やめてくれ!」
真顔に戻り、ハーモニカをポケットに入れる恭一。
正也M「懇願するようなじいちゃんのひと言に、父さんは真顔に戻り、テンションを下げた」
○ エンド・ロール
はためく鯉のぼり。
テーマ音楽
キャスト、スタッフなど
F.O
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第八話) ♪鯉のぼり♪」 をお読み下さい。