決めたいときにはビシッ! と決めたいものだ。ところが溶岩(ようがん)はドロドロ熔(と)けて固まらない男で、ビシッ! と決められなかった。
一人の男が、とある街路を歩いてきた。
「また、あんたか…」
溶岩の名を口にするのも嫌なのか、いつも進路を妨害(ぼうがい)されている非難(ひなん)は、あんた・・呼ばわりをした。
「はあ、どうもすいません…。ただ、私は交通ルールを守っているだけなんですが…」
「そりゃそうだろうが…。歩道が左側にあるだろ?」
「でも、人は右です。ここは日本ですから。学校でそう教(おそ)わりました」
「…まあな。警察でも、そう言うだろうが…」
「どうなんでしょうね? こういう場合は?」
「そんなこと、俺が知るかっ!」
溶岩に訊(き)かれた非難は、思わず熱くなった。
「ですよねぇ~。ずっと決められないんですよ、私」
溶岩は泣けるような声で言った。
「悩(なや)むほどのことでもなかろうがっ! 警察で訊けよっ!」
「はあ…」
「実は俺も決められないんだ。今日の昼、蕎麦にするか、うどんにするか…」
非難も泣けるような声で言った。
「そんなこと、私、知りませんよっ!」
非難に訊かれた溶岩は、思わず熱くなった。
「悩(なや)むほどのことでもないでしょうよっ! 両方、食べなさいよっ!」
「ああ…」
決められないのは、実にもどかしいのである。
完