水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-61- 稽古(けいこ)

2018年04月06日 00時00分00秒 | #小説

 稽古(けいこ)の稽は考える・・という意味だそうで、稽古は過去の知識を紐解(ひもと)き、参考にして今後を考える・・ところから派生した言葉だという。さらにその使用法が多様化され、芸能や武術でも使われるにようになったらしい。要するに稽古とは、技量(ぎりょう)や芸風といった自分の持ち味(あじ)を高めるための練習・・ということになる。
 とある公民館の一室である。休日の午後、賑(にぎ)やかに吟(ぎん)じる声が聞こえる。どうも老人達で結成された詩吟同好会の稽古のようだ。
『♪なんた~らぁぁ~~~~かんたらぁぁ~~ぁぁぁぁ~、どおのぉ~~ぉぉぉ~~~こおぉぉのぉぉぉ~~♪』
 そんな声が外へも響く。偶然、散歩で通りかかった老人が、止まって聞き耳を立てた。
「ほう! やってられるようですなぁ。それにしても、相変わらず泣けるように下手(へた)だっ! さあさあ、退散退散! 体に悪いっ!」
 通りかかった老人は、そう言い捨てると、足早(あしばや)に公民館から遠のいた。外でそんなことを言われているとも知らず、室内の老人は得意満面の笑(え)みでガナっている。周囲の老人達も迷惑この上ない! といった顔つきで聞き入っている。いや、仕方なく聞かされている。それは恰(あたか)も、騒音我慢大会の様相(ようそう)を呈(てい)していた。
 稽古するには、他人の迷惑も省(かえり)みなくてはならない訳だ。

                               完


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