水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-72- メンタル 

2018年04月17日 00時00分00秒 | #小説

 聞き間違ってもらっては困る。レンタル[賃貸し]ではない。メンタル[心理]の方である。このメンタルというやつは、なかなかに手ごわい。人を悩ませたり泣かせることが多いからだ。
 いつやらも登場した深毛(ふかも)禅寺(ぜんじ)の境内である。
「ほう! やはり、また来られましたなっ!」
 来るのを予期していたかのように、管長(かんちょう)の沢傘(たくさん)が男を出迎えた。男は、これもいつやら登場した男である。
「また、お世話になりますっ!」
「やはり、また動きましたかな?」
「いや、今回は動いてはおらないのですが、モヤモヤした心理面の雑念が…」
「おお!! それは、いけませんなっ! メンタル面のケア~は大事ですからな」
「ほう! 管長も、なかなかの外国通でらっしゃいます…」
「ははは…いろいろと外国の方もお参りされる時代ですからな。日夜、学んでおります」
「管長さまがですか?」
「はいっ! いつぞや、ぅぅぅ…と泣ける大恥(おおはじ)を。この年で、お恥ずかしい限りでございます」
「して、それは、どのような?」
「? 忘れましたな、ははは…」
「メンタルな恥ですか?」
「そうそうそれっ! 外国のお方が本尊を指さされ、『コレッ! メンタル?』とお訊(たず)ねされましたもので、つい、『レンタルは出来ません』と返しましてな。偉い大恥でございました」
「ははは…メンタルは泣ける・・ということですか?」
「メンタルはメンタルで、ですかな。ホッホッホッ…」
 沢傘と男は笑いながら寺の中へと消えていった。
 メンタルは泣けるほど複雑怪奇で、ケア[介護]を要すのである。

                               完


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