水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-74- 我慢(がまん)

2018年04月19日 00時00分00秒 | #小説

 人はグッ! と我慢して、何かを守り、何かを得(う)る・・らしい。もちろん、ジッ! と我慢する場合もあるだろう。いずれにしろ、我慢しないと自分の思い上りを知ることが出来ないようだ。思い上りを知らないと、横着(おうちゃく)で生意気(なまいき)な人間にドンドン堕落(だらく)し、ぅぅぅ…と泣ける奈落(ならく)の底へと落ちていくことになるという。ははは…そんな馬鹿なことはないさっ! 人生は我慢などせず、横着に生きて邪(よこしま)に生きりゃいいのさ・・と言う人もいるだろう。確かに、そういう生き方もある。しかし、その生き方には必ず、落とし穴が待っていて、やはり止めどない奈落の底へと落ちていくそうだ。
 とある小学校である。教室の後ろに立たされた、一人の生徒が我慢できず、教壇の教師に叫んだ。
「先生っ! もうダメですっ! 行かせて下さいっ!!」
「ははは…なにをおっしゃるウサギさん。その声じゃ、まだまだっ!」
 教師は笑顔で全否定した。過去のデータからして、この生徒の限界は、まだまだ…と推測したのだ。
「いや、ほんとに先生!! 今日は、もう…。ぅぅぅ…」
 泣けるような声の生徒は、ついに我慢しきれず、フロアへ崩れるように腰を下ろした。そして次の瞬間、気味(きみ)悪く、ニッコリと笑った。
「どうしたっ! まだまだか?」
 教師は、やはりなぁ…と思ったのか、笑顔でそう返した。
「いえ、僕、ダメでした。へへへ…」
「なっ! なにぃ~~っ!」
 教師は生徒の言葉に、思わずとり乱した。
「へへへ…見事に全部、出ましたっ!」
 誰からともなく生徒達から嬌声(きょうせい)が響きだした。と、同時に、悪臭が教室内に漂(ただよ)い始めた。生徒達は我先(われさき)へと教室から逃げるように走り出た。
「ト、トイレへ走れっ!」
「が、我慢はしたんですが、へへへ…」
「で、出るまで我慢するなぁ~~っ!」
 そう言うと、教師も教室から逃げるように走り出た。漏らした生徒だけが笑顔でフロアに腰を下ろし、余裕の顔で佇(たたず)んでいた。
 我慢には限界というものがあり、それを超えると、やはり泣ける事態に至(いた)るようだ。

                               完


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする