水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-71- 肩(かた)が凝(こ)る

2018年04月16日 00時00分00秒 | #小説

 仕事のし過ぎで首(くび)周(まわ)りが重くけだるい状態だけを肩(かた)が凝(こ)る・・と言う訳ではない。責任がある心理的な重圧を受ける状態も、肩が凝る・・と揶揄(やゆ)して遠回しに言う場合もあるからだ。双方とも、度を越すと過労と言われる症状になり、ぅぅぅ…と泣けることになる。泣けるだけならまだいいが、過労死、自殺という命にかかわる事態ともなれば大問題だ。
 とある二人の知人の会話である。
「どうされました、帆立(ほたて)さん? 最近、元気がないですが…」
「これはこれは、赤貝(あかがい)さん。よく訊(き)いて下さいました。実は最近、ぅぅぅ…と泣けるように肩が凝るんです」
「そら、いけませんな。仕事のし過ぎなんじゃないですか?」
「いや、それなら、まだいいんですがね。実は、コレコレでして…」
「なるほど! コレコレでしたか。そりゃいけませんなっ! コレコレは厄介(やっかい)です」
「何か、いい手立てはありませんか?」
 帆立は赤貝に切々と訴えた。
「まあ、なくもないですが…」
「あっ! ありますかっ!」
「はあ、まあ…」
「どのようなっ!?」
「それはですな。私もですが、握(にぎ)られて食べられることです」
「はあ?」
「詳(くわ)しいことは甘酢(あまず)さんにお訊き下さい。あの人なら美味(おい)しく握ってくれると思います。当然、肩凝りも消える筈(はず)ですっ!」
「そうなんですか? それは、どうも。さっそく、伺(うかが)ってみることにします」
 三日後、ぅぅぅ…と泣けるような帆立の肩が凝る症状は、跡形(あとかた)もなく解え去った。
 帆立の肩が凝る原因・・コレコレは、炊(た)き上がった飯(シャリ)の硬(かた)さにあった。ベトついて、どうにもこうにも、ネタを握れなかったのである。
 まあ、肩が凝るとは、そうしたものらしい。

                               完


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