雑感の記録。

秋の夜長はダラテンで

賞味期限

2009年10月26日 | diary
寝ている間に見ている夢っていうのは、良かれ悪かれ起きた途端にすぐ忘れてしまう。
昨日見た夢は結構な悪夢だったので、忘れるに越した事はないんだけど、
それにしては最近ミステリしか読んでないせいか、怖いと言い切れない変な夢だったね。
忘れないようにメモ。


いつもどおり布団に入って、頭側にある箪笥に枕をクッションにして背もたれに。
これがいつもの読書スタイルである。
時間は昼時だったと思う。日差しは弱いが曇っているとも思えない。

読書スタイル、なのだから当然本を読んでいる。
漫画ではなく文庫の小説。4~500ページぐらい。並みの厚さ。
形態は短編集だった。作者もタイトルも出版社もわからない。全部で2~30作収録。
内容はというと、この間買った安部公房の「笑う月」のせいか、
それぞれの作品タイトルに内容を沿わせようとしたエッセイ的な代物だったと思う。

作品中の「僕」がある文庫の小説を読むんだけど、
通常の目次のページではなく、ページを埋めるようにタイトルとページ数が並び、
第一章の前に太字で「御自由に好きな順番で読んで下さい」という文。
作品中の小説は短編集の類ではなく、一般的な小説であり、
やっぱり順番に読むのが当然ですよね。
でも「僕」は律儀に好きな順番で読もうと決めて、
我々読者は「僕」が読んだ順番にその作品内の小説を読んでいく、という形式。

元々一つのテーマ・流れに沿って書かれた小説をわざわざバラバラに読まされるんだから、
まぁエッセイ的、と感じたのは間違っていないと思う。
気持ち悪さはこの時から既に漂っていたんですがね。

ふと気になって、本の背表紙を見た。
出版社にも寄りけりだけど、最近は当たり障りない煽りが付いてるじゃないですか。
まだ目次に目を通しただけで本編にも入ってないけど、
夢の中で手に取った短編集の煽りとは内容が違う気がしたから。
「読み終えたらわかる」
煽りに書かれていた文はこれだけ。
なぜか背表紙を押さえていた指にインクが写っていた。
指に写っていたのはなぜか別の文だった。
どれもカタカナに見えたからだ。
単語ではなかった、と言い切れるのは、インクが反転してなかったからだと思う。


短編集を読んでいく内に、どうにも腑に落ちない違和感を感じる。
各作品は元々一つの作品内作品であり、それを「僕」が無作為に選び読み進む。
こちらが読んでいる短編を切り貼りすれば、「僕」が読んでいるモノと同じ、
作品内作品が出来上がるハズだ。
しかし半分以上読み終わっても、各短編が繋がるとは全く思えない。

短編のタイトルは覚えている範囲で「マンホール」「地下鉄」「ギター」etc。
全部無機物だったことは覚えている。
覚えていないものも含めて、一個の作品を作るには無理があるラインナップだった。
しかもタイトルと中身は全て不一致。
例えば「マンホール」っていうタイトルなのに、特にマンホールの事には触れてないとか。
中身の文章は無軌道で一種の異常、歪な文体に終始していて、常にネガティブ。重い。
作品内作品を想起させるような言葉・ヒントの類も殆どなく、
作者が何を言いたいのか全く伝わらず、日記やチラ裏ですらない。
ちょっと痛い子の黒歴史ノートのがよっぽどマシだな、と夢の中ながらに思った。


結局何も回答らしきものを得られないまま短編集は終わった。
投げっぱなしで終わり、「僕」は最後まで出てこなかった。序文で触れられただけ。
完全にハズレを掴まされ、すっきりしない気分を抱えたままだったんだけど、
本の最後、本来なら解説や後書き・奥付が入るハズの10数ページが空白になっている。
ページ数は印刷してあるので、恐らく落丁では無いのだろう。
徹頭徹尾奇を衒ったまま終わりたかったのかは解らない。
本を閉じてからはいつもどおり、姿勢を崩してズルズルと布団に潜り込み、
読後の喪失感じみたモノを味わう予定だった。
外の景色が違う。


自分の部屋からはベランダを通じて中庭、そして対面に同じマンションの別棟がある。
そのベランダに通じるガラス戸が赤い。薄赤いセロファンを被せたような赤。
しばらく呆気にとられていたが、強い西日が差し込んでいるだけという事に気づく。
その直後、フッと頭に過ぎるものがあった。
さっきまで読んでいた短編集の中で、ずっと引っ掛かっていた何かが解った気がするのだ。
きっとその何かがわかれば、短編集に込められた意味が解ける確信があった。
しかし意思に反して布団の中で身動きが取れず、夢の中なのに猛烈な睡魔に襲われる。
金縛りにはなったことがないけど、そんなモノじゃなくって単純に眠りたいだけ。
思考も停止しそうになった所で、夕日のおかしさがようやく理解できた。


ウチはマンション住まいで、1~3号棟の建物が辺になり三角形を形作る。
西側にはちょうど3号棟があるので、中庭から自室へ西日が差し込むという事は、
3号棟がブッ壊れでもしない限り起こりえない事なのだ。
差し込む赤い日差しの眩しさと、深くなっていく眠気でとっくに瞼は落ちている。
夕日の不条理さなぞどうでも良くなってきたところで、別の違和感の正体に気づく。


短編集は一作につき数ページ。見開きで終わる作品も多々あった。
ページ数は先に述べたとおりの分厚さだったので、200ページ近く空白があるハズ。
しかし余っていたページは10数ページだった。
目次に詳しく目を通していたワケじゃないけど、明らかに作品の数は増加していた。
目次に載っていない作品が幾つか有った事を思い出す。
もしかすると、それらの目次に無い作品に短編集自体の意味があるのかもしれない。
夢の中らしい突飛な考えだ。


もう一分もあれば眠れる。
そんな時、左の肘を掴まれる。
やけに乾燥したカサカサした手の感触だ。
掴んでいる手は片手。恐らくは左手だったはず。
瞼は閉じているし、開ける気もしないぐらいに眠たいので、
掴んでいるモノが何か、という事までは解らない。
ただその手はぐんぐんと床の方へ引っ張ろうとする。
力があるワケではないが、こちらも抵抗できず、されるがままなので、
ゆっくりと布団の縁へ上体が寄せられていく。
枕から頭が落ち、腕がだらりと垂れ下がって、もう少しで布団から落下しそうになった瞬間、
「やっと届いた」とばかりに心臓をギュッと逆の手で掴まれた。
こちらも握り潰す程の力では無かったが、心拍を止めるには十分な力だったと思う。
痛みはないけど、だんだんと息苦しくなっていったところで


「ピンポーン」とインターホンが鳴る。
数秒間を空けて再度。二回目より短い間隔で三回目。
玄関に向かい扉を開けると、マンション自治会の慰安旅行みやげです、
と煎餅の詰め合わせを渡される。
そこでようやく夢だった事に気づかされたのだ。
外は薄暗くなっており、すでに19時近く。
どこからが夢だったのか、寝起きの頭では回転が遅く、考えがまとまらない。
眠気はまだ残っており、もう一回眠れるし眠りたかったので布団へ向かう。
そうだ。今は床に布団を敷いて寝ているのだった。

引っ張られた左肘に手の跡が残っているということもなく、
起きた直後に比べると心臓の方も落ち着いた。
でも引き摺られて布団の外へ投げ出され、ダラリと力なく垂れ下がった手の感覚だけは、
指先のむくみが取れるまで残ったままだった。
もう一度眠れば続きが見られるかもしれない、と無駄な期待を寄せつつ、
そのまま寝た。

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