ウィトラのつぶやき

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第3次産業革命の行方

2014-10-21 08:55:07 | 社会

英国Economist誌の10月4日号のスペシャルレポート「The World Economy」は読みごたえのある記事だった。記事では現在を第3次産業革命の最中であるとしている。第1次産業革命がワットの蒸気機関の発明に始まった動力の革命、第2次産業革命がエジソンの電球の発明に始まった電力の利用、そして第3次産業革命が半導体技術を元にした情報通信の発展による情報伝達発明である。この見方には私も賛成である。

問題はこの第3次産業革命が所得格差を拡大すると言う点である。このブログにも何度か書いたが、情報通信技術の進展で経理などは大幅に処理が簡略され、企業は効率化を行った。Amazon、Google、Microsoft、Appleといった企業は大きくなって新たな雇用を生み出しているが、その新規雇用は失われた雇用よりはるかに少ない。私の意見はEconomist誌に影響されている面が少なからずあるが、実データとしても雇用の縮小が生じている。下の図はその様子を示すものである。左端は日本を含む先進国のいくつかでは実給与が減少していると言うことを示すものである。中央はトップ10%の収入が全体の収入に占める割合ある。アメリカは極端だが全体的に貧富の差が拡大している。右側のグラフが重要なのだが1992年と2010年で比較して、中間層の多くが減少し、一部は高級労働者になるものの、大部分は単純労働者側に移行している。

先進国ではこのような傾向が顕著なのだが、新興国は工業化によって中間層が増大している。しかし、これも「世界の工場」といわれて経済が躍進した中国が最後で、今後は新興国での中国型の発展は難しいとEconomist誌は指摘している。それは最近の製造業のアメリカ回帰に見られるように、自動化により製造コストが下がり、輸送コストの比率が高まってきたからである。

これまでの情報通信は情報を加工、運搬するだけだったが、最近は機械との連携が強まりロボットの発展が著しい。介護や運搬の現場も機械化されて、ロボットに仕事をさせるのと人間に仕事をさせるのでどちらがコストが安いか、という判断基準で造られる仕事は、給与の低減が避けられないだろう。

過去の産業革命も最初は失業者を生んだ。新しい技術を導入する時の最も分かりやすい説明は「今までの仕事を効率化する」なので、こういう現象が起こるのだが、技術が定着してくると、装置を生み出すために仕事が必要になり、結果として新しい仕事がどんどん増えて、平均収入が上がることに寄与してきた。しかし、少なくとも現時点では、情報通信の発展により大きな雇用を生み出しそうな新しい産業は見つかっていない。Facebookは新しい産業で世界中に広まっているが雇用はわずかである。

新しいサービスを生み出すための仕事は成功すれば大きな価値を生み出すが、そのための雇用はごくわずかである。必然的に所得格差は広がる。税制を工夫して格差拡大を防ぐことはできるが、個人のレベルで言えば自分の付加価値は高いのに実収入が増えないのでは不満が残る。競争社会では付加価値と収入が比例するのが最も効率的で、これを人工的にゆがめた国あるいは組織からは優秀な人が逃げ出してしまうだろう。

ここからは私の考えなのだが、今後の社会で重要なのは優秀な人の満足感を収入金額と切り離すことだと思う。実際、ある程度の収入があればそれ以上は報酬による満足感よりも充実感とか、周りからの評価とか言った側面が重要になってくる。Googleは既にそのことに気がついていて、優秀な人材を集めるために、様々なサポートや、仕事の自由と言ったものを与えているように思う。昔の日本にもこういった感覚はあったと思うが、社会全体でそれを共有することが重要だと思う。Google以外にもイケア、京セラ、出光石油など、会社独特の哲学を持っていて、社員にも共感を求めている企業はこのようなことを実践しているように思う。

国単位での成功を求めるなら国民の哲学として価値観が必要だろう。課題先進国の日本はそれが必要な時期に来ていると思う。それは世界全体に通用する必要は必ずしもないが、少なくともグローバルでかなりの割合のトップ人材の共感を得られるような価値観でないといけないだろう。儒教的価値観では難しいと思う。



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