みずほ銀行に次いで三菱UFJがITシステムの減損を発表した。こちらはニコスカードのシステムだそうである。私はこの背景には日本企業のIT技術のレベルの低さがあると思っている。
現在のITシステムの大規模なものはクラウドベースで大規模なデータセンターを作って構築するのが常識である。データセンターでは大量のサーバを並列に走らせて、どのサーバでどのような処理をするかをダイナミックに変更する仮想化技術が導入されている。このような大規模データセンターの構築技術で日本はかなり出遅れている。NTTデータなどもデータセンターを持っているのだが、規模はAmazonやGoogleの1/10以下、ひょっとすると1/100程度ではないかと思っている。これだけ規模が違ってくると開発力、運用力ともにかなりの差が付く。更に開発手法も問題で日本企業は仕様がどんどん変化するアジャイル開発の導入が遅れており、仕様を固めてから何年も後にシステムが稼働するような開発しかできない。
その一方で、銀行システムのような国の根幹をなすようなシステムをAWSのような外資系の企業の商用システムに任せて良いものか、という疑問もある。現在は中国企業のセキュリティ問題が言われているが、米国企業なら良いだろうか、というのは疑問は残る。
このような場合、多くの人が言うのは国策プロジェクトで市場を作り、日本企業の技術を育成するという手法である。しかし、私には国策で市場を作りAll Japanで開発したとしてもコストを含めた技術力で追いつけるとは思えない。最近、国策企業として設立されたジャパンディスプレイが中国企業の傘下に入ったが、このような結末になる可能性が高いと思う。
国の根幹だから競争力が低くても国内で賄うという考え方はある。その場合、国民は割高でパフォーマンスの悪いシステムを我慢しなくてはならず、全体として他の産業の競争力の足を引っ張ることになるだろう。米国や中国のような大国は国内市場も大きいので自国主義を貫くことができる。北欧のような小国では自前主義はあきらめているだろう。日本はどうするべきだろうか?
私は自前主義は無理で、海外の技術を入れるべきだと思う。米国政府がやったように入札条件に国土保全の考え方を入れたうえで、世界の技術を取り込むべきだと思う。その中で日本企業にある程度有利になるような条件を入れて、技術力が世界のトップに迫っているような企業には市場を分け与えるというあたりが妥当だと思う。
21世紀に入って日本企業のIT技術の世界トップとの差は開いてきており地盤沈下が続いている。10年後はさらに開いているだろう。巻き返しの手を今売ったとしても底を打つのは10年後で、手を打たなければ20年後には日本企業の技術力はさらに下がり、IT分野ではニッチを狙う中小企業しか残らなくなると思っている。現状で適切な手が打たれているとは私は認識しておらず、20年後が底になる可能性は高いと思っている。
今となってはウィトラ様の仰るように、海外の先進的な技術を取り入れながら少しずつ挽回を図る他は無いように思います(つまり日本は途上国なみに落ちたということです)。また経団連の動きなどを見ていると、日本の企業には国土保全(安全保障)の観点が大いに抜け落ちているように感じます。企業は商売のことのみを考えており、安全保障は国の責任と完全に切り分けて活動しているように見えます。
日本のIT低迷の原因は、元を辿ればGDP成長率が先進国中単独最下位というところからきています(1995年以降ほぼゼロ成長)。つまり財政政策に起因しています。日本と同じく緊縮財政を敷いている国にはドイツがありますが、ドイツは他のEU諸国からの"揚がり"がありますので日本よりも多少マシな状況かと思います(EUも経済成長率的にパッとしないことになっていますが、日本ほどではありません)。最近では経済政策で失敗して経済が停滞する状況を「ジャパニフィケーション(Japanification)」と言うようです。
最後の段落の技術力低下についてもウィトラ様と同意見です。これはIT業界のみならず日本経済全体の問題でもあると思います。よく大手メディアで、政府の負債に関し「若い世代に借金の付けを回してよいのか」ということを耳にしますが、結果としては、発展途上国にまで落ちぶれた国を次世代へ引き渡すことになることがほぼ確定だと思っています。