ウィトラのつぶやき

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米国のZTE制裁でQualcommが苦しむ

2018-05-25 11:18:28 | 経済

米国政府は中国の通信機器企業ZTEに対して制裁を課した。イランに不当機機器を販売したという理由だが、ぞれで罰金を払えとか取締役を入れ替えろとか言うのは言いがかりに聞こえる。

以前から米国政府は中国企業の通信機器はセキュリティが心配ということで買っていなかったので取引は多くないのだが、今回の制裁はアメリカ企業との取引をすべて停止なので、ZTEが買っている部品、具体的にはQualcommのチップセットを購入できなくなり、端末が作れなくなるのが大きい。Qualcommのチップを使わない端末を作るには少なくとも1年はかかるのでZTEは苦境に陥っている。トランプ政権は「これは効いている」と考えて居丈高に「罰金を払え、取締役を変えろ」と言っているが、結果として起こることはQualcommの倒産だと私は考えている。

もちろん、ZTE自身も大変な苦境であるが、国営企業なので、人員の再配置もできるし、サポートも可能で何とか乗り切るだろうと思う。同時に、Qualcommのチップセットを使わない機器の開発に全力を挙げるだろう。これは制裁が解除されても元には戻らない。ZTEに限らず、全中国のスマートフォンメーカがQualcomm外しに動くだろう。現在中国企業は個々の企業のシェアはそれほど大きくないが全体では世界の4割程度になっている。Qualcommのチップセットは大きくシェアを落とすだろう。

現在はそれでなくともQualcommの事業は先行き苦しくなってきている。絶対的強みを持っていたCDMA技術からLTE方式に世界的に移行が進んでいるからである。Qualcommに買収の話が出たのもこのような状況を反映している。現状では、代替のチップセットはIntel(アメリカ)、Mediatek(台湾)、Spreadtrum(中国)くらいだと思うが、実は中国の最大の通信機器企業であるHuaweiはHisiliconという自社の半導体企業を持っていて、HuaweiではQualcommとHisiliconの両方を使っている。

おそらく中国政府はHisiliconにチップセットの外販を促すだろうしHuaweiも市場が確実に見込めるだろうから外販すると思う。中国企業はIntelからも買わないだろうから、Mediatek、Hisilicon、Spreadtrumが販売を伸ばすだろう。Hisiliconは技術力も高く、Qualcommにと取って代わる企業になる可能性もある。

現在、中国ではGSM、WCDMA、TDS-CDMA、LTEの方式が動いているが、GSMとLTEだけ動けばおそらく中国全土で使えるだろう。そしてこれらの技術にはQualcommのノウハウはそれほど含まれていない。この流れは世界的に広がっていくだろう。

Qualcommに業績は今年の末あたりから受注が減りはじめ、来年は売り上げも大きく減っていくだろう。Qualcommは5Gのチップセット開発ではリードしているが、とてもこれらの減少を補うことができずにどんどん業績が悪化していくと思う。これはある程度業界に詳しい人なら誰でも考えることだろう。

トランプ政権はQualcommの買収を阻止しておいて、一方でQualcommが立ち行かなくなるような政策を行っている。このあたりが業界の流れを理解せずに目先の支持率だけを狙って動いている弱点だと思っている。

もう一つ、トランプ政権は自動車に関税をかけると言い出した。これは日本企業にも大きな影響が出る。日本政府として何か動くべきだと思う。鉄鋼とアルミに関してはヨーロッパは強く反発したのに、日本政府は「やめてくれ」とコメントを発表したにとどまったが、売上額が小さいのでまだ理解できる、しかし、今回もそれにとどまるなら安倍政権は「日米同盟を基軸とする」では無くて「単なる米国追従政策だ」とみなされても仕方がないだろう。


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1 コメント

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経済よりも安全保障… (UCS-301)
2018-05-28 19:57:04
ご専門ですのでQualcommやZTEのお話はその通りだと思うのですが、現在の米政権は経済より安全保障を優先(米国はいつの時代でもそうだと思いますが…)しているのだと感じます。つまり一企業(場合によっては複数社)の浮沈よりも、チャイナの脅威の方が米国への影響が重いとの判断からだと思います(アメリカファースト)。

アメリカの政策の他に最近ヨーロッパの方でも脱中華マネーの動きが出てきているのですが、日本では野田聖子総務相が5Gでの協力の動きを見せているという相変わらずの周回遅れ振りが不安材料です。
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