最近、日本の自動車大手企業が相次いで自動運転関連の提携を発表した。
このうち最も大きく報じられたのはトヨタとソフトバンクの提携である。これは今年1月にトヨタが発表した新しい車の利用形態e-Paletteを実用化することが狙いだといえる。これからは自動車はユーザが所有する自家用車は減ってきて、商用車が便利に使えるようになる。その商用車市場を開拓しようという狙いだと私は理解している。
日産はGoogleのAndroid Autoに踏み込む提携を発表した。Android AutoはスマートフォンのOSであるAndroidを車用に改造したものでカーナビその他のサービスを提供するシステムは既に商用化されており、日産でも搭載車をすでに発売しているので、今回発表したということは、それよりも踏み込んで自動運転につながる部分で日産の要望を聞いてもらおうということだと理解している。
本田は自動運転に関してGMと組んでライドシェアの車を開発するというからトヨタとコンセプトと近い物だろうと想像している。
これらのうち最も筋が良いと思うのは日産である。Googleが自動運転で最先端の企業である、ということがそう思う大きな理由の一つであるが、それよりも重要な筋の良さは、現在の車から自然に移行していく意向シナリオが立てやすいからである。トヨタと日産は法律など大きな変更が必要とな、実用化のに通しが立ちにくい。最も筋が悪いと思うのはトヨタで、ソフトバンクが相手では特に重要な技術を入手することもできずに、ビジネスモデルのアイデアをもらえる程度に終わるだろうと感じるし、世界展開もできそうには思えない、というのが第1感である。GMはアメリカの企業なので法規制の問題などがクリアされやすいが、自動車産業に与えるインパクトはわずかだろうと感じる。
日産の場合はカーナビがより便利になるとか、渋滞情報が得やすくなるというところから次第に自動運転につながっていくと思う。
自動車業界ではもう一つの大きな流れとして、駆動部のガソリンエンジンから電気自動車へという流れがある。2-3年前はTeslaの大躍進や各国政府の電気自動車政策の発表があって自動車の電動化が大きな話題になっていた。私はこれはハイブリッド車でトヨタがあまりに強すぎるので危機感を覚えた各国政府が一気に電気自動車に舵を切ったと思っている。トヨタは電気自動車に出遅れているといわれていたが、調べてみるとこの面での打ち手は見事なもので、駆動部分がどう変化してもトヨタの地位は安泰だろうと思っている。しかし、自動運転のようなソフトウェアに関してはセンスが良いとは思えない。
もし、豊田社長が言い出したE-Paletteに社内の誰も「センスが悪い」と言い出せないのだとしたら、トヨタにとって大きな危機になると思う。
次世代、自動運転を巡っては、まずセンサ(何をどの様な情報として検知するかの問題もあり)、車と地上局との交信、車同士(もしくは広く移動装置としての)の更新、地図情報、制御技術、そして各地の道路行政など、非常に多岐に亘る情報収集、情報処理、標準化、ソフトウェア、ヒューマンウェアが絡んできます。
もちろん、ハードウェアも大切です。OS、ミドルウェアを含めた操縦技術を組込んで実走可能な車になる為には、課題が山積しており、各社、各国が暗中模索状態です。だから今回の各社の提携を比較するのは、あまりにも早すぎると思います。
ただ、数年は早いとしても10年経過しないうちに、その流れに乗り切れないメーカが淘汰され、新たなグループが勢力を伸ばしているであろうことは想像できます。
アメリカからは、恐らくGoogleが(現在の三大自動車メーカは主軸にならずマイナな存在に淘汰されると推定)、日本ではトヨタが残りそうな印象ですが、中国と欧州は? です。
ライドシェア云々は、その先にある社会構造の変化を考える時の布石と思います。米国ではメーカが新車の捌き先先としてレンタカー会社と提携していますが、それと似た事業提携は日本や欧州には少ないです。(トヨタや日産の系列レンタカ会社はそれほど大きくないです)
「こういう観点で見ればトヨタのほうが筋が良い」という観点があるのでしょうか?
大きな意味では「将来の自動運転」です。その実用化には様々な領域が複雑に絡み、影響を与えています。運転のソフト技術の一部に関し日産はAndroidと提携し、それではトヨタは同じ領域のソフト開発をどこと提携するのか、自主路線かを比較するのであれば提携先に関し、その提携の是非に関して比較できると思います。
トヨタの提携相手はソフトバンクで、これはある意味で利用形態から見た提携の相手です。ソフトバンクから「ソフト開発に関する技術」は得るものは確かに少ないと思います。但し、より市場やユーザ、アプリケーションの局面での経験は多くを持っています。同じようにe-paletteの提携候補に入っているAmazon等も物流に車を利用する局面での沢山のノウハウを有する組織です。このアプリ領域に関して日産は?
e-paletteの構想は豊田社長が自ら発表の場に現れてアピールしていますが、これは企業のトップが率先してPR活動を行うという昨今の流れでおかしくはないと思います。
e-paletteの構想自体がウィトラさんのテイストに合わないというのであればどの様な点がおかしいのかをもう少し論議しましょう。e-paletteをアピールする社長に周囲が物言えない雰囲気ではないかというのは邪推では? 私は自動運転が普及した時点の利用形態の「コンセプト」としてはよく考えられていると思います。自動運転が普及するに従い、人の移動、物の移動に合わせてどの様な移動手段が提供されるべきか、それが進むと人の暮らしがどの様に変わってくるのかを考える上での、一つの「コンセプト」を提示しているわけですから。
同じようなことが25年ほど前に携帯電話が小型軽量化し将来形態としてのスマホのコンセプトが各方面から提示された時にも同じような論議があった事を思い出しました。
将来のターゲットとして「子供」や「ペット」、「家畜」にまで普及した場合、どの様な機能を有するべきか、そして生活スタイルはどう変化するのか等を論議しながら、「コンセプト」をまとめ、携帯市場に問うたことがあります。
こんな論議や異見交流を通じてアウトプットは、「次機種の設計」、「次世代のコアとなる要素技術開発」に絞り込むわけです。時間軸で先になればなるほど手探りになります。
今回の「筋論」に戻ると、論議になっている対象の、短中長期の時間軸、ソフト・ハード・アプリ等の領域分類からみても、異なるものを比較して点で少し違和感を感じた次第です。
アプリの議論は将来像を描くために必要ですが、アプリの投資するのは明らかに筋悪です。現状で投資するべきは、自動運転を如何にして市場に受け入れさせるかであり、そのような社会が普通になった時のアプリではありません。
同じような議論が5G移動通信にもあります。5Gになれば10Gbps、あるいは100Gbpsが通せると宣伝されていますが、これはミリ波を用いた時の話です。そしてミリ波通信サービスとして一般的な場所で通信手段として使われる時代は、私は永遠に来ないと思いますが、来るとしても10年以上先でしょう。アプリのパワーポイントを作成するのは良いとしても、ミリ波がどこででも使えるような時代のアプリに投資するのは筋悪です。
日本のITSではConnected Carというと5G自体の超高速移動通信が車に対して提供できるイメージでサービスを検討してデモも行っています。これはドコモとトヨタがリードしています。一方アメリカでは、自動車にLTE標準装備のイメージでアプリを検討しています。日本は筋悪で、アメリカのほうが筋が良いです。
E-Paletteのような時代が仮に来るとして、トヨタにどのような強みがあるのでしょう?。対応する車はトヨタ以外でも提供できます。トヨタがサービスプラットフォームを抑えるには何が必要か、を考えた時に、それはどう考えてもソフトバンクと組むことではなく、グローバル市場でのプラットフォーマーとの提携でしょう。
それだからこそ、私は携帯電話(hardwareとしての)メーカが日本で淘汰された経緯と各社の事業戦略を振り返る時に、同じような道筋を辿らないように懸念するものです。
或る事業の将来を考える時に、一般的には初期(高価格)、普及機(価格低廉化)、成熟期(機能追求時期とコモディティ化)を経て、衰退(産業交代)するわけですが、その変遷に対応できない事業体が市場撤退します。
日本の携帯電話端末メーカとしては、将来的に通信事業者が「土管産業」となり、事業規模の中核はアプリであり、端末の製造売上は一部のメーカに寡占化が進むと頭では想定できていても、結局、通信事業者に依存した商品開発と販売に大きく依存していたが故に、急速に事業領域が縮小したわけです。
プラットフォーム競争の主戦場に乗れなかったわけです。土管産業と揶揄されても、主要三社は何とかアプリ領域まで広げて、活動し続けています。
後発故のSBグループは、先行2社に比較し、HW、SWとも技術的な蓄積が乏しく、ウィトラさんから見ると心細い(怪しげな?)振る舞いが多いかもしれませんが、後発故の太ワークの軽さと拘りのなさで事業をここまで展開してきました。
最近では楽天が、同事業展開するかが面白い点ですが、こればっかりはまだ判断できません。苦労すると思います。ウィトラさん的な「伝統的な技術主軸」の観点からは、SB以上に心もとない存在かもしれません。新興勢力ですから、奇策を使ってでも何らかの事業展開を進めると思います。だから私は「面白い」と表現したのです。
産業の転換時期には色々な新しいビジネスモデルや新興勢力が進出し、暫くの競争時代を経て、事業を維持できた会社が「勝者」として、「次の転換時期」まで生き続ける事になります。
自動運転が自動運転の時代に向かって重点を置く領域は各社様々ですが、HW、SW、制御、利用方法等、それぞれにプラットフォームがあり、又、周辺機器・アプリがあり、更には標準化、地域別行政等、課題が山ほどあります。その場合のシナリオの作成としては最終の利用シーンから検討を行うシナリオと、既存技術の延長・ロードマップからのシナリオとそれらを組み合わせた中での事業戦略を描くことになるわけです。
今回のテーマで見ると、トヨタがHWやSWのプラットフォームをどのように描いているのかは論じられていません。(自主で行くのか、不足分をどのような候補を組込むのか、外部に漏れてこないだけで内部では十分に論議されていると思います)。活用シーンの論議、提携がだけたまたま開示されたわけで、その相手がSBというだけの話です。
ウィトラさんが「グローバル市場のプラットフォーマ」としてどの組織を想定しているのかわかりませんが、HW、SW、行政(法律)、利用シーン等の全てをカバーして、然もそれぞれの分野で中核となっている組織はありません。グーグルが近いかもしれませんがグーグルに手を付けておけば安心というわけでもありません。
又、ウィトラさんの経験が豊富な「標準化」についても同様です。米国、欧州、中国、日本でどの様に進むか全くわかりません。携帯電話の際にも規格が乱立し、その全てに対応すべくリソースを配分したモトローラ社は、殆ど消滅しました。
だから、事業戦略として重要な領域を絞り込む事は各社の裁量で可能ですが、そのそれぞれについてベストな提携先(筋の良い)を想定して交渉しても、相手がある事なので、必ずしも思惑通りには進められないでしょう。(また、提携先に飲み込まれてしまう様な事態もあります)
だから、今回のSBとトヨタとの提携だけを取り上げ、、日産やホンダが発表した異なる領域との提携を比較するのは現時点では無理があるのではと言ったわけです。部分的な見方でSBは相手として「筋が悪い」との判断は当たっているかもしれませんが、屋台骨には影響が少ないと思います。筋が良いと評した日産やホンダも同様です。