ウィトラのつぶやき

コンサルタントのウィトラが日頃感じたことを書いていきます

日本のIT投資不足をどう捉えるか?

2018-10-17 10:29:30 | 経済

日曜日の日経新聞の1面トップに「日本はIT投資が不足している」という記事があった。情報通信白書を引用して、「21世紀に入ってアメリカではIT投資がどんどん増加しているのに、日本ではほとんど伸びていない。これからはAIなどでIT技術の使いこなしが鍵となるので、もっとIT投資を増やすべきだ」という趣旨だった。情報通信白書も同じような趣旨で書かれている。一見、もっともな意見のようだが、私は違和感を感じた。

私に言わせると、日本の課題は「IT投資が不足している」ことではなく、「IT技術の利用が不足している」ことであり、その問題はIT投資を増やすことで解決するかどうか、疑問に感じている。日本のIT投資は伸びていないことは事実である。それは、経営者が尻込みしているからではなく、過去のIT投資がコストの割に十分な成果を生んでいなかったからだと私は認識している。なぜそうなるかというと、日本のIT技術が低いからである。殆どの企業は自社ITシステムを作るときに社内にIT部門を作り、そこで要求条件を整理して、ソルーション企業に発注する。この社内のIT部門、日本のソルーション企業共に、先進国の中ではかなり技術力が低いと私は思っている。結果として高い開発コストをかけて、使いにくいシステムが出来上がる。修正を要求すればまた高い費用を請求される。

発注側の企業からすれば、日本のソルーション企業のレベルが低いならば外資系のしっかりした企業に発注すればよい。しかし、外資系の企業は要求を全て受けてはくれず、発注後の仕様変更に関してもなかなか受け入れてくれない。それで使いやすい日本の企業に発注する。そして、途中で思いついた色々な変更を依頼し、受けてもらう。結果として当面の要求は満たしているが、中のプログラムがぐちゃぐちゃになっていて、完成後の変更は殆どできないようなものが出来上がる、というのが日本のITシステムの問題だと私は思っている。

私と同様に感じている人は多いはずである。私の見方では問題はIT投資を増やしても解決しない。ITシステムの開発手法、発注者と受注者の関係や契約の進め方などに入り込んでいる「日本的慣行」にメスを入れないと解決しないと思っている。しかし、情報通信白書をはじめとする公式の文書でこのような指摘は見たことが無い。日経新聞は実態を踏まえているはずだが、冒頭で紹介した記事からはこのような雰囲気は感じられない。それはプロである発注側のIT技術者、受注側のソルーション提供企業のどちらにも都合が悪いので情報を出さないからである。発注側の経営者は漠然と「IT投資はコストパフォーマンスが悪い」と感じているが、その内容を分析できるほど詳しくない、というのが実態だろう。

10年ほど前、インド企業のソフトウェア開発力が高いと注目を集めていた。しかし、その後インド企業がソフトウェアの分野でトップに躍り出たということはなく、むしろ停滞感が漂っている。これはこの10年ほどの間にソフトウェアの開発手法が変化してきたからだと思う。日本企業はソフトウェア開発について、発注側も含め、抜本的に見直す必要があると思っている。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
企業と情報システム (世田谷の一隅)
2018-10-18 11:30:35
ウィトラさんは情報システムの発注側、提供側双方の技術力不足を嘆いていますが、私は少し違った観点で眺めています。

情報システムはあくまで事業経営のツールなので、経営者が「どんな情報をどんなタイミングでいくらかけて収集し、分析処理した結果が欲しい」のかを明確に打ち出していないのではないでしょうか。

ここで「いくらまで投入する意味があるけどそれ以上の費用が掛かるなら止める、もしくは代替案で対応する」との強い決意が明確でないケースが殆どです。

現場の声や試算を積み上げてなんぼの見積を提示されてため息だけつくような経営陣では碌な情報システムは出来ません。まず「いくらでその情報が欲しい、何故ならこの判断が誤ると〇〇万円の損につながる可能性が□□%程度発生する」との前提があると思います。(情報のセキュリティは別問題です)

もう一つ、ソリューションプロバイダと呼ばれる情報処理機システム業者では、SAPがほぼ業界標準になっており、これを組込むことが多くなり、各社が全く独自に作り上げるシステムは最近急速に減っていると聞いています。

現場が「標準パッケージでは使いにくいから独自の要求を次々出して高いものになる」との見方も、経営者がもっと突っ込んで、瑣末な変更なしで標準パッケージで業務を進める「業務革新の姿勢」を見せないことには情報システムがどんどん膨らんで(複雑さと費用が)、身動きが取れなくなるのは不可避です。つまり、情報システム技術の問題というより、基本は情報システムをどのように考え、経営として使いこなせるかどうかの経営者の問題と考えています。
返信する
経営者の要求を満足できない (ウィトラ)
2018-10-18 14:17:06
私は経営者の要求はあると思っています。しかし、実行部隊が与えられた予算で満足できるシステムを構築できないのだと思っています。
何処が無駄遣いかを指摘するのは経営者の責任ではないでしょう。
もちろん、「何でもよいからAIを使え」などという経営者は論外です。しかし、多くは「海外のライバルがこんなことをやって成果を出しているそうだ」と小耳にはさんで「うちでもできないか検討せよ」というパタンだと思います。そして上がってきた見積りが高すぎるのでGoをかけない、ということでしょう。
日立の中西さんなどはこういった事情を十分に認識していると思います。だから日立はプラットフォームの自社開発を止め、海外のプラットフォームを担ぐ方向にいち早く舵を切った。そして今は海外プラットフォームの上に薄皮をかぶせて「自社プラットフォームだ」と宣伝している。三菱と日立は早い段階で自社の実力に気が付いたが、それ以外の大手は気付くのが遅れたのでそれが業績の差になっていると思っています。
返信する

コメントを投稿