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山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

なんで上層の冷たい空気は地上に降りてこないの?:気象学超入門2

2023年03月16日 | お天気

空気を下げてみると

前問で上層の空気が冷たい理由はわかった.
でもそれでかえって次の疑問が湧かない? 
浴槽でも低い水温の水ほど下にたまるように,冷たい=密度が高い=重い(「ボイル・シャルルの法則」)のだから,部屋の上部に設置したエアコンのように、冷気は下降してくるはず.

ところが現実の大気は上空は冷たく,下層は暖かいまま.
これってとっても不安定じゃない?
※:大気の層が「不安定」というのも立派な気象学用語

それではと,上空の低温の(乾燥した)空気を下降させてみましょう.
すると,前問で示した「乾燥断熱減率」の逆方向で,100mに1℃の割で暖かくなります.
ところが,普通では,100m下にある周囲の空気は0.6℃しか暖かくありません.

つまり,同じ高さになった場合,自分より0.4℃冷たい空気がそこにあるのです.
おなじ高さ(≒気圧)では温度と重さは逆相関の関係(温度が高いほど軽くなる)があるので,下降してきた空気は,周囲のより冷たい空気よりも軽いので下には下がれません.

結果として先の空気は元の高さにいるしかありません.


温位

実は上空の冷たい空気がその高さにいられるのは,前問で説明したように,その高さの気圧が低いためで,
もし気圧が同じなら,上空の気温は必ずしも地上の気温より低くはないのです.

そこで,気圧(≒高さ)が異なる空気の”等圧(≒同じ高さ)での温度”を表現するために,だいたいの地上の気圧である1000hPa(ヘクトパスカル)に直した場合の温度に直してみます.
これを「温位」といいます(このページ最重要キーワード!).

実はこの温位で比べると,上空の冷たい気温の空気の方が地上よりも「暖かい」のです.

たとえば1000m上空で5℃の空気(ただし雲がない)と地上(1000hPa)10℃の空気とどちらが温位としては「暖かい」(温位が高い)でしょうか.

標高1000mの空気を地上(1000hPa)に強制的に下げると,気温に乾燥断熱減率を掛けて、5℃+1℃×(1000m/100m)=15℃になります
(温位の単位は本当は摂氏℃ではなく絶対零度-273℃を基準にした(ケルビン)。摂氏15℃=15+273=288K).

なのでこの場合,1000m上空の空気は地上の空気よりも気温は5℃低いけど、温位は逆に5℃も高い(暖かい)ことになります.

つまり,肌で感じる温度ではなく,空気の内部エネルギーとしての温度(温位)でみると,上空ほど暖かいのです. 

すなわち、上空の空気は,気温は低いが温位は高いのです。

だから上空の冷気は下に降りてこない,すなわち「安定」しているのです.

もちろん,温位的にも冷たい空気が上空にあったら,それは勢いよく下降してきます
(ここでは,空気はあくまで雲がない=乾燥している状態を仮定しています.雲があるとちょっと話は複雑になります.でも普通は空に雲があるでしょ.10も参考にしてね)

温位については、上の説明でも足りないようで、読者の質問コーナーでも追加の説明をしています。


高層天気図が等圧面の理由

ちなみに,「高層天気図」
※(天気予報のアンチョコとして利用価値絶大)
は,等高度ではなく,等圧面(500hPa面など)で描かれます.
※:一方、よく見る「地上天気図」は、海抜0mの等高度に合わせた気圧の違いを表現しています(低気圧・高気圧を表現したいから)。

なにしろ等圧面なのでそこでの温度=温位(その気圧での温度)と解釈できるため、空気の真の温度差がわかって便利です.
気象予報士が天気予報で「上空の寒気が…」とか言えるのです。

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