今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

なぜ台風の進路がわかるのか

2020年09月06日 | お天気

地震と違って、気象災害は予測可能である。
もちろん100%正確ではないが、雨量や風速、それに台風を含む低気圧の移動方向・速度まで予測可能である。
だからこそ、気象災害はもっと被害を防ぐことが可能だ。

さて、過去最大級といわれている台風10号が、北西方向の進路を北に切り替えて、九州の西側を通過すると予測されている。
なぜその方向転換まで予測できるのか。

根拠は、台風を動かす力の分布による。
台風は地上から上空10000メートルに達する超巨大な積乱雲の塊で、自ら反時計回りに回転しながら、海上の水蒸気を吸い上げ、それが雨滴に相変化する時の熱エネルギーによって強い上昇気流(=積乱雲)を発生して周囲の空気を吸い上げ、さらにそれが莫大な空気の運動エネルギーを生み出している。

台風本体は回転しているだけなのだが(この回転〔スピン)力は地球の自転(スピン)に由来)、台風自身が吸い込むのは温かく湿った南風成分が多いので、自ら北上する運動性をもつ(速度は遅い)。
ただ、今の時期は、北側に大きく張り出した太平洋高気圧に邪魔され、高気圧からの風でその切れ目である西側に方向転換させられる。
その方向の先が日本なのだ。
南東の太平洋から日本に接近してきた台風10号は、奄美諸島に達すると、今度は北に方向転換して、九州に向う。
なぜか。

高気圧圏から離れて、台風を動かす別の力が新たに働くから。
その仕組みがわかるのが、通常の天気予報には紹介されない、高層天気図
気象予報士のアンチョコといってもいいくらい重要な情報源。

高層天気図にも幾つかあるが、台風進路予想に使うのは、最も高層の上空300hPaの図(右は5日21時の図の一部)。
左上の9600というのが地上からの高さ9600mで、すなわち上空9600m前後の等圧面の図。
九州の南には、台風10号を示す実線の円が地上天気図ほどの存在感はないが、明確に存在している(逆にそれ以外の地上低気圧は存在していない。ついでに右端のHが太平洋高気圧で、左側9600の下の太線内がチベット高気圧。先月まで両高気圧が日本の真上で合体していた)
海抜0mの等高面である地上天気図と同じく風を示す矢羽根がある。
台風の真北にある矢羽根は、南東風なので進路でいうと北西を指しているが、その北の九州上空の2つの矢羽根は南南東から南、進路にすると北北西から真北になっている。
ここが台風の進路変更のポイントだ。
ではなぜ、そこで風向が変化するのか。

九州の左(西)に目をやって、東シナ海・揚子江の河口付近まで垂れ下がった太い実線を見てほしい。
これはまさに9600mの等高線なのだが、その等高線の左(西)側も右(東)側もほぼ線と平行に矢羽根が並んでいる。
つまり、揚子江の河口上空で風が北向きから南向きに折り返している。
しかも周囲より風速が高い(図の点線が等風速線で、線上の数値は風速(ノット))。
東アジア上空を横断するこのダイナミックな風こそが、「ジェット気流」だ(点線が平行に混んだ部分)。
地上では過去最大級を騒がれる台風10号といえども、この大気圏最強のジェット気流には逆らえない。
点線の等風速線を見ると、台風の東側は40ノット(20m/s)だが、朝鮮半島北東のジェット気流は60〜100ノット(30-50m/s)。
このように上空のジェット気流は、常時地上の”強い”台風並みの強さで吹いている。

つまり、奄美諸島に達した台風10号は、それまでのマイペースを維持できず、ここから先はジェット気流に吸い込まれる運命なのだ。
ジェット気流に吸い込まれるので、台風は風向だけでなく、移動速度も高まる。
そして朝鮮半島に上陸してからは、海上からのエネルギー供給がなくなるので、急速に衰弱する。
以上の過程が、この図からわかる(より正確な予測は、この後の高層天気図によるべき)。
少なくとも台風10号が近畿以東に来ることはないと断言できる。

テレビのお天気番組は、せっかく国家試験に合格した気象予報士さんがいるのだから、こういう詳しい情報を解説してくれた方がいいと思う。
なぜなら、これら高層天気図など専門的気象情報は今では、ネットで誰でも見ることができるのだ。
地上天気図と3時間ごとのピンポイント予報以上の詳しい情報を得ようと思えば、今は誰でも得られるのだから。


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