今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

夢=非合理的という偏見

2022年03月30日 | 心理学

既存の夢理論に対して覚える不満は、夢を非合理的なものと決めつけて、その非合理性を夢の本質としている点だ。
この”偏見”はフロイトから始まり、最新の脳神経科学にもとづいた睡眠研究においても踏襲されている。

確かに覚醒時の判断規準からすると、夢の中身は合理的でない部分もあるが、それが夢の本質とはいえない。
なぜなら、そういう要素は覚醒時の想像・空想でも該当するからだ。

夢を現実とのみから対比すると、それらの間の差異しか見えてこない。
これは2元対比に巣くう思考バイアスである(覚醒時の思考はかように非合理的)。
この2元論バイアスを避けるには、夢と現実に空想を追加して3元間での2元対比を3回実施することで、任意の2対の差異と共通性をともに抽出できる。→その試行結果:夢を見る心③

こんな手の込んだことをしなくても、たいていの夢の中では夢主は懸命に理性を働かせていることは、夢主でもある覚醒後の本人が一番判っている。
そう、夢主(夢の自我)は覚醒時の自我と連続しているので、システム2の同じ自我だ。
すなわち夢主の合理能力は、覚醒時の合理能力と等しい。

たとえば最近みた自分の夢を紹介すると、

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どうやら学生時代の自分のようで、大学の学生宿舎のように、それぞれが自室をもって、各自が自室から出てくる。
その1人から、ものすごい寒気がくるという話をきいたので、それに備えて自室で服を着替えることにした。
厚い上着だけでは不足だと思い、下着のシャツから選び直す。
手元には2種類の網シャツがあり、網目のより細かい方を選んだ。
肌の上に暖かい空気層を作るためだ。
さらに薄い(ウインド)ブレーカーをシャツの上に着ようかと思った。
すなわち網シャツで作った体温の気層を、ブレーカーで覆うのだ。
だが、ブレーカーはむしろ外側に着て、寒気の風を防ぐのに用いた方がいいと思い直した。
夢には登場していないが、この他に防寒用の上着があり、それも着ることが前提となっている。

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このように、夢の中で重ね着対策によって寒気に対応しようと、至って合理的に試行錯誤している。
現実と異なるのは、服の種類が現実のものではなく、夢だけの選択肢になっている点だ。

夢では、夢主は与えられた文脈(環境)に冷静に対応しようとしている。
非合理的なものがあるとすれば、それは夢主ではなく、夢に与えられた文脈の方だ。

そう、夢は文脈(環境)を与える。
そして夢主はその所与の文脈(環境)の中で、それに適応するために、夢の中で懸命に思考して対応しようとしている。
なので夢の中で行動が普段と異なる場合は、災害などの緊急事態時に日常とは異なる行動を選択せざるを得ないのと同じだ。
文脈が非合理的なら、それに対する反応もその非合理性に適応するのが合理的だ。

すなわち、非合理なのは、夢主の行動ではなく、そういう反応をせざるを得ない、夢の文脈の方だ。

では、そのよう文脈を与える主体は何なのか。
自我よりも原始的な”無意識”(システム1)なのか。

私はそうは思わない。
原始的なシステム1では、記憶の再現がせいぜいで、あんな創造的なストーリー展開はできない。

夢はシステム2が文脈を構成する側と見る側に分離した自作自演体験だ、というのが私の夢の理解である。→夢を見る心④
ただ、リンク先の説明がわかりにくかったので、これについて別稿で改めて説明する。→夢:表象と自我の分離現象