熱い湯に浸かると体温が上る、というのは理解できる。
では、体温ほどのぬる湯に浸かると体温はどうなるか。
婦人用体温計を口にくわえて、試してみた。
実は意図したわけではなく、湯船に入れた湯の温度調整を間違えて、湯温が37.0℃のぬる湯になってしまったのだ。
さて、まず一回目の入湯。
その時、30秒で体温を測ると、36.50℃。
この計測時間での温度は、深部体温ではなく表皮温度とみてよい(深部体温はたいてい37℃を超えている)。
実際、入湯しても最初は暖かいが、しばらく湯船に浸かっていてもちっとも暖まらない。
適当な時間に上って、体を洗う。
二回目の入湯時に体温計をくわえる。
5分待って体温計を見ると、37.43℃ 。
なんと湯温を上回ってしまった(その時の湯温は36.9℃)。
実際、入っている間に額に汗がにじみ、耳の奥で鼓動が響いた(深部体温が上る時の反応)。
これは面白い現象だ。
なんで浸かっている湯温以上に体温が上ってしまうのか。
確かに、夏に多くの人が熱中症になるが、たとえ猛暑でも気温は35℃を超えた程度で、体温以下だ。
つまり熱中症になる危険があっても、皮膚の外側の環境温が体温を上回ることはめったにない。
ちなみに、熱中症になる危険性は、気温に高湿度が加わると高まる。
風呂だと皮膚の外側はもちろん湿度100%。
その意味では、気温よりも低い温度で体温が上りはじめるのはわかる。
つまり、体温のホメオスタシス機能は、環境温が体温程度でもうまく作動できなくなるわけだ。
意外に脆弱。
というより、気温が20℃でも低体温症にならないのだから、ホメオスタシス機能は低温側に強いといえる(ちなみに地球の平均気温は15℃)。
なにしろ人類のご先祖は氷河期を生き抜いて、今でもツンドラ地帯で生活しているのだから。
そして年間通じて気温が体温以上の場所は存在しないから。
陸上のほ乳類の中で、人類だけが見事に体毛を退化させたのも、熱中症予防を最優先したためといえる。
ということは、体温以上の湯に浸かるという行為はかなり不自然で、身体にとって想定外の事態ということだ。
日本人の入浴は、その異常事態を逆手に取って、免疫機能を活性化させようとしていることになる。
すなわち、感染症に発症した時のように体温を上げて、体内の異生物や悪性新生物を熱死させている(スズメバチに侵入されたミツバチの攻撃法と同じ)。
このようにホメオスタシス機能が高温側で機能しないことは、かえって適応に有利なわけだ。
ただ、ある意味危ない橋を渡っているのだから、やり過ぎには注意が必要(早い話が熱中症の危険)。
せっかくなので、体温上昇効果のある最低湯温を探ってみたい。