博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2017年10月に読んだ本

2017年11月01日 | 読書メーター
天皇の戦争宝庫: 知られざる皇居の靖国「御府」 (ちくま新書1271)天皇の戦争宝庫: 知られざる皇居の靖国「御府」 (ちくま新書1271)感想
靖国神社と同様に戦没者の慰霊・顕彰を目的としながら忘れられた存在となった皇居内の「御府」の歴史を掘り起こす。靖国と同じく戦争への勝利を前提とした施設であったこと、基本的には限られた人間にしか拝観が許されなかったが、戦没者の増加でその遺族の拝観が許されるなど、戦況や世相に応じて御府の扱いが変わったことなどを面白く読んだ。また、日露戦争の戦利品であった「鴻臚井碑」に渤海王の冊封に関する記述があったことから、中韓の歴史論争の火種になった事情にも言及されている。
読了日:10月03日 著者:井上 亮

「悪の歴史」東アジア編〈上〉「悪の歴史」東アジア編〈上〉感想
各執筆者がこれまで発表した研究や一般書の良いダイジェストになっている。先秦~前漢武帝あたりまでは『史記』の記述の克服が裏のテーマになっているように感じた。ただ、この内容で「悪の歴史」を語っていることになるのかどうかは非常に疑問を感じる。他の巻との兼ね合いもあるのだろうが、君主や后妃だけでなく、盗賊・遊侠など多彩な人物を取り上げたり、思想面での掘り下げがあっても良かったのではないか。
読了日:10月08日 著者:鶴間 和幸

矢内原忠雄――戦争と知識人の使命 (岩波新書)矢内原忠雄――戦争と知識人の使命 (岩波新書)感想
戦中の「キリスト教知識人」としてのあり方を描くという本書の本筋からは外れるが、主に第二章で触れられている、矢内原忠雄と植民政策学との関わり、植民政策学が戦後に国際関係学・国際経済学へと発展したという話や、矢内原の殖民理論が近年グローバリゼーション論の先取りとして評価されているという点などを面白く読んだ。
読了日:10月10日 著者:赤江 達也

悪の哲学―中国哲学の想像力 (筑摩選書)悪の哲学―中国哲学の想像力 (筑摩選書)感想
『悪の歴史(東アジア編上)』の内容・構成に不満を感じたので、中国史で「悪」を語るなら他にどういう方向性があるのだろうと本書を手にとってみた。先秦諸子や朱子学・陽明学を「悪」、そしてそれと対比される「善」を切り口に新たな文脈に再構成しているが、本書を読んで連想したのは、儒教を「怨念と復讐の宗教」という文脈に再構成した浅野裕一の『儒教』である。両書を対比し、同じ歴代の思想の再構成を図るなら、本書のような方向性が有意義ではないかと感じた。
読了日:10月12日 著者:中島 隆博

享徳の乱 中世東国の「三十年戦争」 (講談社選書メチエ)享徳の乱 中世東国の「三十年戦争」 (講談社選書メチエ)感想
応仁・文明の乱を引き起こすきっかけとなり、「戦国」のはじまりとなったと位置づけられる享徳の乱の過程を追う。その享徳の乱も、西国を押さえる室町幕府と東国を押さえる鎌倉府との二元統治体制のひずみによってもたらされたものだが、幕府側も鎌倉府側も両者対立しながら、「兄の国」と「弟の国」との二元体制自体を精算しようとしなかったのは面白い。全国一元統治は中世から近世へと脱皮する課題だったということになるだろうか。
読了日:10月14日 著者:峰岸 純夫

全訳 封神演義 1全訳 封神演義 1感想
巻末のコラムで「小説として完成度が低い」とし、安能務が原作を改めたのも「要するに原作がイマイチなので、改変せざるを得なかったのであろう」としなかがらも、それなりにスラスラと読み進められるようになっているのは、翻訳者の力によるものだろうか。カットせざるを得なかったという注釈類も、続巻のコラムなどの形で公開を望みたい。
読了日:10月18日 著者:

司馬遷と『史記』の成立 (新・人と歴史 拡大版)司馬遷と『史記』の成立 (新・人と歴史 拡大版)感想
司馬遷の生涯と『史記』の著述を重ね合わせる構成。司馬遷が最初に手を付けたのが、当時の現代史の入り口にあたる秦末の反乱、「陳渉世家」「項羽本紀」「高祖本紀」ではないかとか、著者の想像の部分が面白い。
読了日:10月19日 著者:大島 利一

道徳を基礎づける 孟子vs.カント、ルソー、ニーチェ (講談社学術文庫)道徳を基礎づける 孟子vs.カント、ルソー、ニーチェ (講談社学術文庫)感想
哲学の門外漢には難しいというのが正直なところだが、個別の指摘、たとえば中国思想は道徳の領域と政治の領域とをつなぐものを真剣に考えてこなかったのではないか、法が支配者による抑圧の道具にしかなっていないのではないかという問い掛け(これは中国だけでなく、中国思想の影響を受けてきた日本の問題でもあるだろう)や、舜と弟の象の話をカインとアベルのような兄弟相克の物語として見ようとする視点などを面白く読んだ。
読了日:10月22日 著者:フランソワ・ジュリアン

国際政治 - 恐怖と希望 (中公新書)国際政治 - 恐怖と希望 (中公新書)感想
およそ半世紀前の著作で、当時のキューバ危機などを念頭に置いて議論しているが、不思議と古さを感じない。「すでに核兵器をもつ国がこれからそれを持とうとする国に対して「持つな」と言うことは、正当性を持たない」といった核開発による安全保障のジレンマの問題、国連と国際法の役割とその限界など、現在の北朝鮮問題に対しても通じそうな視点や議論が盛り込まれている。
読了日:10月25日 著者:高坂 正堯

国宝の政治史: 「中国」の故宮とパンダ国宝の政治史: 「中国」の故宮とパンダ感想
大陸でのパンダの国宝化と、主に台湾での故宮文物の国宝化が、ともに対外的主権の確立や「一つの中国」論と密接に関わるなど、パラレルな関係にあるという観点からの議論。この二つを結びつけるという発想は面白いが、両者の個別の議論、特に「ふたつの故宮」をめぐる議論がやや薄く感じられてしまったのが残念。
読了日:10月28日 著者:家永 真幸

馬賊の「満洲」 張作霖と近代中国 (講談社学術文庫)馬賊の「満洲」 張作霖と近代中国 (講談社学術文庫)感想
張作霖の勢力が馬賊から地方政権へと脱皮していく様子と、馬賊や土豪から抜け出せないままに討伐されたり没落した他の勢力との対比、張作霖の日本人軍事顧問が、必ずしも日本側の都合に沿って動かなかったという話を面白く読んだ。張作霖の半生の部分は「馬賊の「満洲」」というより「軍閥の「満洲」」という趣きがあったが…
読了日:10月30日 著者:澁谷 由里


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