前回みたように、Da Capoでのヒカルの歌唱は「鼻声効果でより少年ぽさが増したメインヴォーカル」と「大人の色気を振り撒く低音を響かせるバッキングコーラス」という振り幅の広い歌声を複数駆使して構成されている。
そんな中でその両方が奇妙に交わる音がある。な行の発音がそれだ。「なにぬねの」な。
長年のファンなら御存知かと思うが、2016年以降、もっと言えば『真夏の通り雨』以降ヒカルの発声と発音が大きく変わっている。とりわけその「な行」の発音の変化がかなりドラスティックであった。
具体的には、それまでのヒカルはな行の発音を幾らかパーカッシヴに跳ねるように元気な感じで発音する事が多かった。それが『真夏の通り雨』以降は母音を押し出すようにして歌う場面が増えた。そう、『降り止ま“ぬ”真夏の通り雨』の“ぬ”のように。ねっとりとぬめるような感触で。
最初映画館で『Beautiful World (Da Capo Version)』を聴いた時、前回触れた通り『ばっか』の歌い方でこれは新録だなとは思ったものの「待てよ、14年前のアウトテイクである可能性もまだ残されているな」とも考えた。当時素材として録音はしていたけどミックスで不採用だったテイクとかそういうことね。だが、この「な行」の発音を確認して「嗚呼、この歌唱は最近の、2020年の(少なくとも2016年以降の)ヒカルのテイクなんだな。」と確信できた。それくらいにやっぱり違う。
特にこの『Beautiful World』という曲ではその「な行」の音が悉くキーワードを構成しているので注目しない訳にはいかないのだ。
『“ね”がい』
『か“な”う“な”ら』
『“ね”むらせて』
『どん“な”』
『しら“な”い“の”』
『“ね”てもさめても』
『“な”んか“な”い』
『かもしれ“な”い』
などなどなど。印象的なフレーズの悉くに絡んできている。
そんな中でオリジナルとDa Capoの違いがわかりやすいのはこのパートになるだろうか。
『“な”“に”がほしいかわから“な”くて
ただほしがって
“ぬ”るい“な”みだがほほをつたう』
なとにとぬの3つが出てくる。Da Capoでは特に『ぬるい』の歌い方が耳を引く。鼻声も相俟ってヒカル声フェチ勢にとっては聴き逃せない一節となっている。オリジナルと較べて子音(“N”の発音)より母音(“U”の発音)が前面に押し出されているのがよくわかるかと思う。これが今のヒカルらしさなのだ。
これによってリズムのアクセントよりメロディの流れや歌詞の印象の方により重点が置かれる効果を生み出している。そして、鼻声による少年声効果に、この少しねっとりとまとわりつくような「な行」の発音が昨今のパイセン化した大人っぽいアダルトなヒカルのイメージをも同時に喚起する。その相乗効果がことのほか堪らない訳なんですよ、えぇ!(力説)
このようなテイクを経て、今後ヒカルが『Beautiful World』をライブでどう歌うことになるのか?なんてのも気になるわね。いつの日にか是非々々チェックしてみたいものです。
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