ヒカルは、長らく母への思いを直接歌うことはせず、対象を換えて描写する事で結果的に普遍的なラブソングを幾つも生み出してきた。"対象を換えて"というのは至極簡単な事で、『ママ』とか『お母さん』とか言わずに『君』とか『あなた』とか言うだけのことだ。
この、"言うだけのこと"の威力が絶大だった。誰しもがそれを男女のラブソングと思った。20年前はLGBTという枠組みは日本では無名だったし、異性愛と思い込む事に何の躊躇いもなかった。
いや、母娘が実際に"恋仲"だったという話ではない。娘が母を思う気持ちが恋愛感情とほぼ同じだったという話だ。そこは確かにヒカルが大胆だった。『初恋』というタイトルにそれは現れているし、インタビューでも臆面無く「私は初恋をしていない。強いていえば両親。」と言い切っている。初恋を経験していない人が、普通の世間一般(それはどこの何なのだろう)では"親子愛"とか言われている感情を"恋"と呼び『初恋』という歌を書き歌いこれは本当に初恋の時の瑞々しい感情の動きをよく捉えているなと方々から絶賛されているのだ。恐るべき確信犯である。
もっと言ってしまえばヒカルはその「愛は恋」という主張の為にラブソングを書いてきたとも言える。こう言っては何だが、結構罪深いよね。何の罪だかよくわからないけど。
流布されている"常識"でいえば、青春の恋愛は親との愛情関係を忘れると共に始まるものだ。休日に親と出かけなくなり友達と出かけるようになり、いつの間にやらデートの相手と…というのが"常識"さんの教えるところだ。が、ヒカルは親との愛情関係を忘れなかった。覚えたまんま恋愛をし結婚をし離婚をした。なんだろう、この流れを必然と呼びたくなってくるな。またそれも行き過ぎなんだけれども。
それをそのまま当て嵌めると、今ヒカルは息子に恋をしていると自ら言ってしまうのだろうか。『あなた』はそれと知らずに聞けば普通の異性愛のラブソングだともとれるだろうしな。
「普通の異性愛の…」という枕詞に違和感を感じてもいい世の中になりつつあるのは嬉しい。百合男子としてはもっとこう…(うるさい笑
…こほん。『Prisoner Of Love』なんてもう11年も前だからね。時代は前に進んでるのさ。
母と娘の愛は異性愛且つ近親愛。こう書くとタブーだが、ヒカルは意にも介さないだろう。際どい事をしているのにそう感じさせない。20年の軌跡は伊達ではないということだ。
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