前々回は「最初は取り逃がしたけど回帰した時に捕まえられた曲」の例として『For You』を挙げたが、ではその“最初”の方の瞬間で捕まえられた曲の例としては何があるのか。これも毎度挙げている気がするが、それでも第一に取り上げたいのはやっぱり『Apple And Cinnamon』だ。前に多分「2年vs2時間」みたいな風にして取り上げたかと思うが、『For You』が完成まで2年を要した一方で『Apple And Cinnamon』は2時間で出来ちゃったのだと。それだけ過程が異なるのにどちらも甲乙つけがたいハイクォリティな名曲だ。
そしてこれまた『For You』と同じように、歌詞に「曲の成り立ち」を匂わせる言葉が躍る。
『Never thought I'd sing this song』
─「この歌を歌うことになるとは全く思わなかった」。如何にこの歌が突発的に生まれてきたかがよくわかる。巧まずして生まれてきたのだ。
『Sometimes it just doesn't go as planned』
─「時として物事は思った通りには行かないものだ」。まさにこの曲のことだと思ういちばんのフレーズ。事前にプランしていた訳でもないのにあれよあれよという間に生まれてきた事への戸惑いを感じる。「思った通りにいかない」からといって「うまくいかなかった」とは限らないのだ。これホント人生でも大事なことなのよねぇ。
『Started out so simple and innocent』
─「素直で無垢なところから始まった」。これは、こういうことが起きやすい、起き得るときの“秘訣”についての一言だろう。何度でも引用するが(有言実行)、
『自分の海原の時間帯とか海流とか風向き、魚の生態とかもちろんよく知ってるし、どうしたら捕まえやすいか、自分の釣りやすい場所は分かってるんです。だから、そこにとりあえず極力いて待つしかない…』
と宣うヒカルの『どうしたら』の部分だ。なるべくシンプルで純粋な心待ちでいるときにメロディはやってくる。案外、興奮とか感動とかではないのだ。スッキリとした気分で、どこまでも澄み渡って見通しが良く、まるで自分が器になったような時に、それを満たすようにやってくる。ヒカルはその感覚について歌っているのだろう。
…勿論、元々『Apple And Cinnamon』の歌詞内容は「相性の良すぎる二人が長続きしなかった失恋ソング」である。その相性の良さの比喩として林檎とシナモンを取り上げているというだけの、どちらかというとヒカルの歌詞の中ではわかりやすい部類に入る歌だ。何より、Bメロが3回出てくるのに全部歌詞が同じなんだから言いたいことはもうそれで言い切ってるとみてもよい。
なので私がこの失恋ソングの歌詞を取り上げて「創作時のフィーリングを表現したものだ」と言ってもそれはこじつけでしかない。基本的にはね。だが、もしヒカルがその事に余り「自覚的でなかった」としたら、ちょっと面白い事になるかもしれない。なので、次回以降他の曲でもみてみるかなー。何の新情報も無ければね。
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