佐野洋子「死ぬ気まんまん」読了
本書は平成25年に光文社文庫より発刊されたものです。これまでにも佐野洋子のエッセイは何冊も読んでいて、もういっかと思っていたんですが、書店で見かけて、ついなんとなく買ってしまいました。
この佐野洋子という人は、歯に衣着せぬというか、このエッセイの内容も、かなりあけすけで本音満載のところが面白いんですが、本書も期待にたがわず、痛快なエッセイでありました。
乳癌を発症し、手術したのが骨に転移が見つかり、その後、脳にも転移し、平成22年に72才の生涯を閉じた佐野洋子ですが、特に積極的な治療をせず、痛みを止める処置だけを続け、そして亡くなったのは、いかにも彼女らしい最期と言えると思います。
印象に残った一節、引用します。
<この世のものは例えば1枚のコタツ板の上ですべて行われていた。花が咲きにわとりが鳴き、惚れたはれたと泣きわめき、金があるのないの飯がうまいのまずいの、どのような地獄も天国もいわば1枚のコタツ板の上でこの世というものは営まれていた。>
コタツ板というのがいかにも佐野洋子ですね。
満洲から母と幼い姉弟を引き連れて帰国した彼女は地に足をつけて生活をするという感覚がないまま生きてきたような気がします。その不安定な思いが彼女という人格の形成に大きく影響したのだと思います。
とまれ、太く短く、自分の思うところをそのまま生きて亡くなった佐野洋子、改めてご冥福をお祈りします。