トシの読書日記

読書備忘録

独創的な怪異談

2015-03-22 01:32:20 | か行の作家
幸田露伴「幻談・観画談」読了



平成2年に岩波文庫から出版されたものです。


言わずと知れた自分が敬愛する幸田文の御尊父であります。幸田露伴という作家は難しくて読みにくいという先入観があって、敬して遠ざけていたんですが、この五編が収録された短編集は以外とそうでもないものもあり(すごく読みづらいものも二編ほどありましたが)、なんとか読み通すことができました。


最初に収められている「幻談」という作品。読後、不思議な気持ちにとらわれました。一種の怪談のような話なんですが、「それで?」と突っ込みを入れたくなるくらい何でもない話なんですね。


船頭を雇って海釣りに出た侍が、水の中から竿のようなものが出たり引っ込んだりするのを見る。よく見ると溺死者が釣竿を握っていることが分かる。その竿がかなりいい竿なので取ろうとすると死者が固く握っていて放さない。それを無理に指をこじ開けて竿を取る。翌日、その竿を持ってまた釣りに出かけるとまた、海の中から竿が出たり入ったりしている。そこで南無阿弥陀仏と言いながら竿を海に返す、という、そんな話なんですが、なんですかね、これ。


なにか訓話めいた話かなと思うんですが、どうやらそうでもないようで、よくわかりません。よくわからないんですが、何とも言えない深い味わいがあるんですね。


五編の作品が必ずしも同じ文体ではなく、軟らかいものもあれば硬いものもあり、それぞれ楽しめました。中でも圧巻なのは「盧生(ろせい)」という作品。いつも川に釣りに出かける主人公が(しかし釣りがよく出てきますね)、いつもの場所に少年が坐って釣り糸を垂れている。これを見とがめた主人公が、そこをどいてくれないかと話をするんですが、そんなやり取りのあと、少し引用します。

<…この不満足な設備と不満足な知識とを以て川に臨んでいる少年の振舞が遊びでなくてそもそもなんであろう。と驚くと同時に、遊びではないといっても遊びにもなっておらぬような事をしていながら、遊びではないように高飛車に出た少年のその無智無思慮を自省せぬ点を憫笑(びんしょう)せざるを得ぬ心が起ると、殆どまた同時に引続いてこの少年をして是(かく)の如き語を咄嗟(とっさ)に発するに至らしめたのは、この少年の鋭い性質からか、あるいはまた或事情が存在して然(しか)らしむるものあってか、と驚かされた。>


どうですか、この回りくどい文章。すごいもんです。いや、これはほめてるんですがね。


いずれにせよ、この大正末期から昭和の初期にかけての露伴晩年の作品集、大いに楽しませてもらいました。

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