トシの読書日記

読書備忘録

師匠〈パトロン〉と案内人〈ガイド〉

2013-04-09 16:55:14 | あ行の作家
大江健三郎「宙返り」(上)読了



他の文庫に邪魔されながら、ようやっと上巻、読了しました。この作品も前回の「燃え上がる緑の木」三部作同様、テーマは宗教であります。でも宗教というか、宗教というモチーフを通じて、人はいかによく生きるか?という大江の問いかけであるとも言えると思います。


東京を舞台に始まった物語ではありますが、前半の最終章、主人公である木津とその若い恋人(男)の育雄、そして医師の古賀は東京から例の「四国の森」へと向かうのであります。またしても「四国の森」です!そうなると「燃え上がる…」のサッチャンとかアサさんとかまた出番が来るんでしょうか。たのしみです。


印象に残ったところ、少し長くなりますが、引用します。

〈神はこの世界を作りあげている自然の総体だ。というのが(私=師匠〈パトロン〉の思想の)根本です。私たちが信仰を抱いて生きることは、正確にかつ豊かにその総体を認識してゆくことであって、それをよくなしとげた時、私たちの認識そのものが、そもそもの初めから神による認識であったことがわかる。
神から私たちに流入しているものの働きによって、私たちはその認識に到り、それを言葉にすることもできるのだ。(中略)いま私たちは、もう遅すぎる認識を、破壊される神、病む神から、赤んぼうへの母親の口移しの言葉のように導かれているにすぎない。(中略)
世界としての自然、すなわち神を破壊し、恢復しえぬ病いにした、その実行者は人類なのだから。
神へ抗議するやり方によって、悔い改めを導く者、反キリストの教会は、そのように建てられるのではないか?〉

これが作品前半部分の大きなポイントではないでしょうか。救い主である師匠〈パトロン〉のビジョンです。最後に出てくる「反キリスト」というのは、もちろん逆説的な意味だと思います。

後半が楽しみです。

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