松家仁之編「伊丹十三選集―日本人よ!」読了
本書は平成30年に岩波文庫より発刊されたものです。
天才、伊丹十三が生前残したエッセイ、評論、インタビュー等を編集し、全三巻の選集にしたものです。その第一巻として「日本人とは?」というテーマをメインに据えて、様々な見地からそれを検証していくという編み方になっています。
いや、実に面白いですね。知的好奇心をいたくくすぐられます。しかし、前半の部分、「日本人はどこから来たのか?」それに続いて「邪馬台国とは?」のようなところは、正直、あまり興味がなかったので、ちょっと読むのがつらかったんですが、それを過ぎると、もう俄然面白くなってきましたね。
真ん中あたりにちょっと軽めのエッセイ(といっても、中味はずっしりと手ごたえのあるものです)、そしてまた後半に対談形式のいわゆる「日本人論」を持ってくるあたり、構成もうまいですねぇ。
「ミドル・クラス」と題したエッセイの中から少し引用します。
<たとえば、ネクタイとスーツに身を固める以上、人前でズボンをたくし上げたり、ワイシャツをズボンに押し込んだりチャックを直したり、そういう真似はよしてもらいたいのである。ひどいのになるとトイレットから出てくる際にチャックを上げたり、ズボンをずり上げながら出てくるではないか。卑猥というものである。最低のエチケットが守られていない。
エレヴェーターの前に数人の男女が待っているとする。ドアが開いたとき真先に降りてくるのは男である。また真先に乗り込むのも男である。背広とネクタイに身を固めた男である。恥ずかしいではないか。筋が通らないではないか。俺はそういうことはしないといえる人が何人あるか。>
これなんですね。伊丹十三の矜持というものが伝わってきます。男子たるもの、かくあるべしという気持ちにさせられます。
また、一番最後のところ、評論家の山本七平氏とフランス料理を食べながら日本人論を展開するくだり、非常に興味深く読むことができました。
伊丹十三のあふれる才気を改めて感じ入る次第です。