トシの読書日記

読書備忘録

世界の縁

2019-05-14 14:06:07 | ま行の作家


 
村上春樹「海辺のカフカ」(下)読了


本書は平成25年に新潮文庫より発刊されたものです。


いやー感動しました。世界一タフな15才、田村カフカ。まぁいつものごとく謎に包まれたところはあちらこちらにありましたが、そんなことはどうでもいいと思わせるくらいの素晴らしい出来ばえですね、この小説は。


印象に残ったところ、引用します。

甲村図書館、大島さんのセリフです。

<「僕らはみんな、いろんな大事なものをうしないつづける。大事な機会や可能性や、取りかえしのつかない感情。それが生きることのひとつの意味だ。でも僕らの頭の中には、たぶん頭の中だと思うんだけど、そういうものを記憶としてとどめておくための小さな部屋がある。きっとこの図書館の書架みたいな部屋だろう。そして僕らは自分の心の正確なありかを知るために、その部屋のための検索カードをつくりつづけなくてはならない。(中略)言い換えるなら、君は永遠に君自身の図書館の中で生きていくことになる。」>


また、

<比重のある時間が、多義的な古い夢のように君にのしかかってくる。君はその時間をくぐり抜けるように移動をつづける。たとえ世界の縁までいっても、君はそんな時間から逃れることはできないだろう。でも、もしそうだとしても、君はやはり世界の縁まで行かないわけにはいかない。世界の縁まで行かないことにはできないことだってあるのだから。>


田村カフカが森の奥深くを進んでいるときに思索を重ねる場面も非常に印象的でした。ちょっとどんな感想を綴っていいのか、うまく言葉にできません。「ねじまき鳥」もよかったんですが、本作品もそれに負けず劣らず、いや、もっとすごい作品に仕上がっています。


こんなすごい作品を次から次へと送り出していた村上春樹なんですが、今の、例えば「騎士団長殺し」なんかを読むと、なんとこの体たらくという思いで、しっかりせーよ!と背中をどやしつけたくなるのはきっと私だけではないと確信しております。


そんなこんなで村上春樹をめぐる旅も終わりを告げるときが来ました。初期から中期にかけて読んできたわけですが、この物語の構築力たるや、もうため息が出るくらい素晴らしいものがありました。やはり日本文学界における稀有の作家であることは論を俟たないところでありましょう。


何年か後にもう一度同じように再々々読してみようかと思っております。