トシの読書日記

読書備忘録

美しく老いるということ

2013-01-11 15:02:35 | か行の作家
黒井千次「高く手を振る日」読了



大江健三郎「治療塔惑星」をどうしたもんかと思いつつ、書店でこんな本を見つけ、手にとってみました。


70代の老いらくの恋。若い世代の情熱的な恋とは違い、慎ましく、おずおずと、また時にはふてぶてしいところがなかなか味わいがあります。


主人公の嶺村浩平は70代後半の一人暮らし。妻は10年以上前に亡くなっている。そろそろ身辺の整理をしないと、という思いにとらわれ、ある日、2階の押入に入れてあったトランクを開けてみる。中から思いもかけない写真が出てきて彼は驚く。自分と妻との大学の同期生で、同じゼミ仲間の瀬戸重子の写真。ここから物語が動き出します。


浩平の一人娘の夫の関係から重子とのつながりが生まれ、二人は会うことになるんですが、まぁちょっと陳腐といえば陳腐ですね。いかにも作りましたというストーリーです。


それと、いくら携帯電話を持たない70代の老人とはいえ、メールがなにかということすら知らない、という設定はいくらなんでもあり得ないでしょう。老人が、若者が普段当たり前に使っているツールを全く知らないということで、世代間のギャップを際立たせようとする意図はわかるんですが、いかにもこれは安易と言わざるを得ません。


内容は、面白いといえばそうなんですが、黒井千次という作家は、以前「日の砦」という作品を読んで、感銘を受けた覚えがあるんですが、こういう、いかにもっていう体裁のものを見せられると、少しがっかりします。


まぁ、息抜きにはなりました。次、やっぱり大江、いきます。

悲しみの通奏低音

2013-01-11 14:47:03 | あ行の作家
大江健三郎「治療塔」読了



軽いものを読むとか言いながら、また大江に手を出してしまいました。著者初の近未来SF小説ということで、ちょっと興味津々で読んでみました。


はっきり言って、大江健三郎にSFは似合わないですね。面白いことは面白いんですが、読んでいる間中、ずっと違和感がぬぐいきれない思いでありました。


地球上の「選ばれた者」たちが、核で汚染された地球を脱出し、「新しい地球」を目指す。過酷な環境の中で生きる彼らは、ある日、「治療塔」なるものを発見する。それは「かまくら」のような形態で、中にベッドがあり、そこに入って横になっていると、病気やケガが治り、肉体そのものも10歳くらい若返るというものだった。しかし、ついに厳しい環境に耐えられなくなった彼らは、やむなく元の地球に帰還するのだが…という話です。


随所にアイルランドの詩人、イェーツの詩を引用し、それがひとつのメタファーとなって小説に深みを増しています。


しかし…ですね。なんだかしっくりきませんでした。本書の続編ともいうべき「治療塔惑星」というのがあって、それを姉が昨日、貸してくれたんですが、どうすっかなぁ…。



姉から以下の本を借りる


大江健三郎「治療塔惑星」
大江健三郎「雨の木(レイン・ツリー)を聴く女たち」
多和田葉子「ゴットハルト鉄道」