トシの読書日記

読書備忘録

途惑いと陶酔

2011-12-14 16:45:59 | ま行の作家
松浦寿輝「もののたはむれ」読了



以前、「あやめ 鰈 ひかがみ」という短編集に強烈な印象を受けた同作家の処女短編集です。


一種独特の世界ですね。幻想文学とでも形容したらいいんでしょうか。いわゆる「夢か現かまぼろしか」といった世界が広がり、一瞬身の毛がよだつような結末があったり、かなりエロチックな、それこそ陶酔の場面があったりと、読む者をあきさせません。一番印象に残ったのは、最初に収められている「胡蝶骨」です。


東京の赤羽あたりに出かけて仕事を終えた主人公が、そのまままっすぐ帰る気にもなれず、ぶらぶら歩いているうちに一軒の古道具屋を見つける。なんの気なしに入ったその店で、彼は小さな象牙の蛇を買う。そろそろ帰ろうと駅の方角を目指すのだが、道に迷ってしまったようで、なかなか駅にたどり着けない。仕方なくさっきの古道具屋へ戻ってそこの主人に道をたずねるのだが、一向に要領を得ない。困惑していると、店の奥から和服の女性が出てきて駅まで案内すると言う。言われるままに着いて行くと、やがて駅に着くのだが、女も当然のように電車に乗り込む。このあたりから物語は、なんとも不思議な空気に包まれてくるわけです。


結局、この男はその和服の女と電車のシートの上で性交するんですが、窓は閉まっているはずなのに、折から降ってきた雨に二人はずぶ濡れになりながらセックスをするんです。そして、走っているはずの電車もいつの間にか止まっているようだし、そもそも二人は電車に乗っているのかどうかさえよくわからなくなり、もしかして自分達は降りしきる雨の中、野外の草むらの上で交わっているのではないかという疑問がわいてくる…。



とまぁこんなあらすじなんですが、これはあれですね。内田百間の世界ですね。吉田健一の小説にもこんなのがあったような気がします。しかし、この作家はそれらの大先輩の決して二番煎じではない、なんというか、きらめくものがあります。そこがすごい。


また折があったら最近の小説も読んでみたいところです。




蛇足ですが、解説の三浦雅士。知った風なことをこむずかしく並べ立て、陳腐な美辞麗句を連ねて得意になっている。こういう解説が一番たちが悪い! 最低です。