トシの読書日記

読書備忘録

煙草と妻

2009-09-11 15:29:30 | た行の作家
田辺聖子「嫌妻権」読了


世に嫌煙権という言葉はあるものの、「嫌妻権」というものはついぞ聞いたことがないんですが、まぁ妻を嫌う権利ってことなんでしょうね。


いろんな夫婦が登場し、夫は妻のこんなとこやあんなとこがイヤといつも心の中でつぶやいている。しかし、それを逆手にとるような密かな楽しみを見つけ…


お聖さん独特の軽妙なユーモアとウィットに富んだ短編集でした。


自分にあてはめて考えてみると…ま、それはやめときましょ(笑)

疾走する妄想

2009-09-11 15:07:27 | た行の作家
田中慎弥「切れた鎖」読了



しかしこれもすごい小説でした。なんでも三島由紀夫賞と川端康成文学賞を史上初で同時受賞というふれこみに興味を持って読んでみたのですが…

なんの予備知識もなく読み始めたんですが、いやもうすごいですね。笙野頼子もかくやと思わせるような破天荒な内容で、びっくりしました。



「不意の償い」「蛹」と表題作の「切れた鎖」の三編から成る短篇集なんですが、最初の「不意の償い」で度肝を抜かれました。幼馴染の男女が彼の部屋で初めて結ばれたとき、すぐ近くのスーパーで火災があり、そこで働くそれぞれの両親四人が焼死するという、なんとも凄まじいストーリーです。

そしてその事が男のトラウマとなり、結婚してからもずっとそれが頭から離れず、そして妄想が妄想を呼び…という話です。



2作目の「蛹」。これは主人公がカブト虫なんですが、虫とか動物を擬人化した話は、はっきり言って好きではなくて、いやぁまいったなと思いながら読み始めたんですが、これがどうして、すごい話で一気に読まされてしまいました。しかし、この短篇を読んだ驚きをうまく言葉にできません(笑)


そして表題作の「切れた鎖」。これが一番現実に近いというか、まともでした(笑)

これは、梅代という、昭和の初めにコンクリート事業で財を成した桜井一族に嫁いだ女の、母から自分、そして娘、さらに孫へと続く系譜を縦糸に、そしてその家のすぐ裏手にある在日朝鮮人が活動する協会(統一原理?)との確執を横糸にして描いた一族の物語で、読了後、なんともやるせない思いをしました。



田中慎弥という作家、初めて読んだんですが、なんとも不思議な、また侮れない作家です。

人間の業の肯定

2009-09-11 14:20:12 | た行の作家
立川談志「新釈落語咄」読了



少し前に「談志楽屋噺」を読んだあと、書棚を見たらこれがあったので読んでみました。

落語ファンにはおなじみの古典落語を20席取り上げて、その内容から「人間の業」というものを考え、立川談志流の演じ方を説き、果てはそのテーマをもっと鮮明にするために話を変えてしまうという荒業を繰り出すという、さすが立川流の家元面目躍如といった態の内容であります。



いわゆる立川談志の哲学といった部分、ちょっと引用します。


「…我が立川流家元は、その夢見心地の世界に入れる要素というか、別な注文とでもいうか、その中に「人間の業」という世にいう非常識の世界の肯定をするところに落語の妙があるのだと考えている。」


「落語てえなぁ、日本人の文化と、その文化の中に住んでいる安住に、何のかんのとクレームをつけてきた。それは日本人としての安住があるとはいえ、どっかに欠陥があったからだろう。だってしょせん世の中、かりの姿で、どっかで無理ィしてるのだし、安住という無理を揶揄し、突っつき、共感を得ていた、という歴史を持っている。しかし文明開化とともに、また戦争に敗けたトタンに、日本人的発送を軽蔑し、国際感覚などという、日本人を無国籍人種にでもしろ、というが如きの文化人や評論家。彼らにあおられイライラ、ソワソワ、落ち着かなくなって、四六時中騒ぎまくっている現代人にお伽ばなしの『桃太郎』そのものを語ってやる必要があるようにも思える。が、もう、それも遅まきだろう。」


「芸能なんてすべからく、その芸人の技芸でもって夢の世界に入れてやればそれでいい。ユートピアの世界に客を入れて夢心地にすればいいのだ、という意見もある。だが家元のいう落語という芸能は、それらも多少あるけれど、本質は人間が創った常識という、人間が生きていくためにこしらえた学習というものの無理をどっかで識っていて、たまにゃあ、それらから人間を解放してやれ、と語っているものと考えるがゆえ、どうも、この人情咄というものには抵抗があるのだ。」


立川談志の落語、一度聞いてみたいもんです。