トシの読書日記

読書備忘録

海に漂う濃密な空気

2006-11-25 18:12:56 | か行の作家
川上弘美「真鶴」読了

久しぶりに味わった川上弘美の世界。川上弘美は、その作風から三つの時期に分けられると思う。

「神様」「溺レル」「物語が、始まる」に代表される、初期の作品集。そして「センセイの鞄」「古道具中野商店」の中期、それからこの「真鶴」・・・・。

読みながら考えた。これは、川上弘美の内から湧き出てくる芸術性の発露なのか、それとも、「こんな感じで書いたら受けるのよね~」みたいな計算ずくなのか。

前者ならすごいと思い、後者なら許せんなぁと思っていたのだが、読み終わってそんなこと、どっちでもいいやって気持になった(笑)

昔から思っていることなのだが、芸術というのは絵画にしろ、音楽にしろ、文学にしろ、作者の内面からあふれ出てくるものが形になり、それを見たり、聴いたり、読んだりする人が感銘を覚えるかどうかであって、決して受け手に阿って自分の内面を曲げてはならないと信じていた。

でも、この小説を読んで、そんなケツの青いガキのようなこと言っててもなぁなんて思った次第(笑)どっちでもいいんです。そんなことは。経緯はどうあれ、自分の心に響けばそれがいい作品なんだと、この「真鶴」を読んで目からウロコが落ちた思いがした。

今回は、作品の内容に全然ふれてなくてすみません(って誰に謝ってんだ? 笑)



そして桐野夏生「OUT」読了

いわゆるクライムノベル(犯罪小説)というもので、自分はミステリーとか、こういった類いの本は、まず読まないのだが、なんでだろう・・・手にとってしまいました(笑)

長編なので(二段組で447ページ!)途中で挫折するかと思ったけど、おもしろいですねぇ。一気に読んでしまいました。

弁当工場で働く主婦雅子の仕事仲間の弥生が、自分の旦那を絞殺したところから話が動き出す。その死体を雅子の家の風呂場で解体し、バラバラにしていくつかのゴミ袋に分けて入れ、3人で手分けして捨てるのだが、いい加減な性格の邦子が捨てた死体が発見されてアシがつく。
警察の捜査にはなんとかうまくごまかすのだが、ちょっとした綻びから街金の十文字とバカラ賭博のオーナー佐竹がそれを嗅ぎつける。
この佐竹がすごい。時間と人と金を使って、その犯罪の確信を得ると、まず邦子を殺す。
そうして雅子に恐怖を味あわせてじわじわと雅子を追い込んでいく。
最後、雅子は佐竹に犯されながら殺されそうになるのだが、死体解体に使っていた手術用のメスで逆に佐竹を殺す。
雅子は、抜け殻になったような状態で、海外へ行くことをぼんやりと決意する。

とまぁ、こんなストーリーなのですが、読み物としてはおもしろかったです。

でも、それだけじゃなく、佐竹の暗い過去に秘められた心の淵、雅子の目に、昔殺した女と同じものを見た佐竹の思いに人間の業という、やるせない思いを感じました。

桐野夏生は、もう1冊、「アンボス・ムンドス」という短編集があるので読んでみたいです。(っていつになるかわかりませんが 笑)