トシの読書日記

読書備忘録

死は敗北ではない

2006-11-20 20:10:25 | た行の作家
辻仁成「白仏」読了

著者の祖父、今村豊をモデルにした、セミ・ドキュメント。

全編に、逃れることのできない死に対する不安というものが流れているのだが、不思議に暗い気持にならないのは、主人公である稔の、生きていく積極的な姿勢を強く感じるからである。

稔は、様々な体験を通して生きることの意味を模索する。答えは示されていない。文中の言葉を借りるなら、「絶対に見つからない答え。決してたどり着くことのできない真理。どんなに悩んでも安心を得ることのできない納得。つまり答えなど最初からないのだった。何故だろうと疑問を抱きつづけることが生そのものなのではないか。」

読みながら、中島義道の一連の本を思い出していた。「どうせ死んでしまうのに、何故そんなにみんな一所懸命生きようとするのか。」

しかし、「白仏」の稔は、生きることにあくまでポジティブである。中島義道がネガティブというわけではないが。

物語が、生と死だけでなく、様々な愛というものにも話が及んでいて、とても簡単には感想を語りつくせない。

深く心に残ったのは、稔は少年時代に愛した(憧れた?)緒永久に対する思いをずっと抱き続け、それはヌエと結婚してもその気持は変わらないのだが、それは夫婦愛とはまた違う次元の愛であり、読み手の心にそれがストレートに伝わってきた。

いずれまた再読して、生きていくことの本当の意味をもう一度、じっくり考えてみたいと思う。



筒井康隆「日本以外全部沈没」読了

先に読んだ本から、またなんでこんなのを選ぶんでしょうかね(笑)

おととい、エリック・クラプトンの公演があり、行き帰りに読む本を捜していて、時間がなかったので適当に抜き出したという次第です。

少し前に、小松左京原作の「日本沈没」のリメイクが公開されていたが、これは、そのパロディ。で、これも映画公開されるようなんですね。というか、されてる最中で、さっきネットで調べたら、名古屋は終わってました。見たい気もするんですが、岐阜(大垣)で今やってるようです。行くほうに気持が傾きつつあります(笑)

タイトル作を含む、11編が収められている短編集。1962年~1976年に書かれたものということで、今から30~40年前のSFということになる。

全然色あせてないんですね。これが。発想が奇想天外、奇妙奇天烈、魑魅魍魎、摩訶不思議。おもしろいのなんのって、もうね、たまりません(笑)

こんなことあり得ないと思わせながら、強引に引っ張っていけるのは、一見でたらめに見えるストーリーの細部が、意外に綿密な裏打ちがあったりするからなんですね。

文句なく楽しめました。