たかはしけいのにっき

理系研究者の日記。

誰も悪くない

2020-02-11 05:38:00 | Weblog
 どんなにダメな選択をとってしまっても、どんなに誰かを不条理に傷つけるようなクズ行為をしてしまっても、そんなことをしたいと思ってする人はいない。
 あらゆる環境から強制的に自分に負荷させられている、何か自分以外の要因であることが殆どである。

 与えられた環境ごとに倫理観は変わる。ある世界ではその行為は最低だと考えられていたとしても、まったく別の世界では同じその行為が「賢いやり方だ」と称賛されることすらある。
 例えば、サッカーで、もともとの日本の空気感でマリーシアを行いまくったら、「正々堂々としていない」と断罪されることだろう。しかし、世界で戦う上では必要な価値観になってくる。こういったことは、日本と海外などの大きな話だけでなく、小さい世界でも容易に観られることであり、どこに行ってもある。
 そもそもの話をすれば、昨今スポーツは「勝つため」に最適化すべきであると大前提になってしまっているが、果たして本当にそうだろうか?俺らは、みんながみんな、勝負に勝ちたいからという前提で生きているわけではない。勝った状態が非常にわかりやすいスポーツにおける昨今の以上のような価値観が、別の分野に輸入され続けている。受験にしても、就活にしても、恋愛にしても、研究にしても、音楽にしても、YouTubeに動画をアップロードすることにしても、みんながみんな一本化された「わかりやすい」価値観に最適化することに疑問すら生じない状況になって久しい。

 そんなにも「勝ち」に拘らなくちゃいけないの?という声を上げにくい世の中に、いつからなってしまったのか、と思うけれど、それは、みんながみんなそれぞれに、非常に怖い想いをしてきてしまった結果だと思う。
 「他人を蹴落として、少しズルをしてでも、とにかく”勝ち”を手にしなくちゃ、生きていけないかもしれないぞ!」という経験をした人に、「いや、でもさ、やっぱりなるべく、みんな仲良くできるような道を探る方がいいじゃない?」という言葉は届かない。
 考えてみれば、俺ら生きてきて、これまでたくさんのことがあったよね。ニュースだけ見ても、地下鉄サリン事件、就職氷河期、911、リーマンショック、311と、どれをとっても”騙されてはいけない”とか”いつ自分たちの常識がひっくり返るかわからない”という恐怖を感じるようなことばかり。
 現代の空気感と社会からの要請を考慮して、個々人の人生の中での体験を想像すれば、クズにならないことはものすごく難しい。自分自身だけでいっぱいいっぱいになっちゃっているから、自分の将来の幸福のために誰か弱者を上手に利用して、自分の糧にしながらも、それをシステムの中で気がつかせない方法をとるしかないように思えるような、それが世界の法則で仕方ないことじゃないかって思っちゃうような、それくらいの恐ろしい体験を、沢山沢山目の前で観てきちゃったんだね。

 誰かを「クズだな」って思うんだったら、思うくらいだったら、「それだけツラいことを強いられて、可哀想だったんだ」ともう一回転して解釈したほうが、おそらく真実に近いだろうと思う。

 勝利至上主義な彼ら彼女らでさえも、「こんなに勝ってこれたはずなのに、全然褒めてもらえないな」と不安がっている。だからこそ、そんな自分の気持ちを、具現化されたトロフィーや具体的な数字を使って、自分自身を癒そうとする。もしくは、必要以上に、「こんなに頑張ってきたんだ」という努力(らしきもの)を客観的に示そうとしてしまう。
 勝利なんてハナっから興味がなかった彼ら彼女らでさえも、「いくらなんでも、自分って損しすぎじゃない?」と不安がってしまう。だからこそ、そんな自分の気持ちを、最適化しないだけのイイワケを上手に用意することで、自分自身を癒そうとする。もしくは、必要以上に、まったく別の世界に目を向けることで誤魔化そうとする。

 興味の容量が自分自身だけに占有されてしまっている状況で、さらにその状況を強固にすることを「努力」と名付けてしまえば、そりゃ幸せには到達しない。
 興味のスペースを空けなくちゃいけないはずだけれど、他者のジャッジをすることで平穏を保っている現状をとにかく一時やめなければならないことは、恐怖の経験からそのような手段をとっているために、なかなかにその先に幸せの存在があることの実感が得られないのだ。
 そう、ABCグループもクズも、そのようなジャッジが為されているという現象の説明が目的なのであり、そのようなジャッジそのものをいつまでも肯定化するためのものではないはず。長らく学校でインストールされてしまった「順位主義」から脱却するためであることを忘れてはいけない。

 だからこそ、誰のせいでもない、誰も悪くはない。
 すべては物理現象のせいであり、これを我々でどうにかクリアすることが最大に重要になる。そのために何をするべきか、俺自身、考え続ける必要があるんだと思う。
コメント
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