図書館で借りた「ユリイカ」の
デコちゃん(高峰秀子)の追悼特集を読んでいたら、
これは借りるのではなくて、買うべきだろうと強く思う。
冒頭、名文家としても知られたデコちゃんのエッセイが
何本か収録されているのだけど、黒澤明監督への追悼文が
愛情たっぷりでありながら、湿り気のない、きびきびとした文章で。唸る。
他にも吉田喜重監督や、神様候補(二階堂ふみ)のインタビューなどもあって、
やはりじっくり味わいながら読むべきだろうと。
だから明日、返そう。単純に返却日ということもあるけれど、
本は買って手元にないと。
で、デコちゃんの黒澤監督の追悼文だけど。
山本嘉次郎監督を偲ぶ会で、何十年かぶりに再会したふたり。
助監督時代の黒澤監督と一時期恋仲にあったというデコちゃんは、
再会を果たしたとはいえ、話題に困り、
最近見た黒澤の新作の話を始めるのでした。以下、引用。
「デルス・ウザーラ、観た」
「そう」
「ロングショットが多かったネ。人物もバストがせいぜいだった。どうして?」
「ボクね、なんだかクローズアップを撮りたくなくなっちゃったんだ」
「なぜ? 役者が下手だから?」
「いや、そんなことはないけど」
「ないけど、なにサ?」
「つまり、アキちまったんだね」
「そうか…つまり、トシとったっていうことね」
「ま、そういうことだ」
(高峰秀子・著「にんげん住所録」文春文庫より)
デコちゃんは黒澤作品には一本も出ていない。
「デルス・ウザーラ」以降、枯れた作風になった黒澤作品に
デコちゃんが出ていたら、と思ったりする。
「八月の狂詩曲」とか「まあだだよ」とか。