マーティン・マクドナー監督
「イニシェリン島の精霊」を見る。
この監督の「スリー・ビルボード」同様、
暗喩に満ちたドラマであり、深読みをすればするほど
いろんな意味が読み取れる映画というか。
でもふつうに、友情が決裂する物語だと見ても
じゅうぶん興味深いし、
ずしりと重い感慨をもたらせてくれるのです。
舞台は1920年代のアイルランドの孤島。
この島に住むパードリック(コリン・ファレル)は、
親友のコルム(ブレンダン・グリーソン)から
いきなり絶縁されてしまう。
途方に暮れるパードリックだが、コルムの意志は固く、
これ以上関わったら、自らの指を切り落とすとまで言い出す。
コルムはパードリックのことを「退屈だから」という理由で
関係を絶とうとするが、あまり説得力がない。
それにしては決心が固く、
自分の指を切り落としても平然としているコルムに戦慄する。
アイルランドの内戦をこの二人の諍いに
象徴させているという解釈はおそらく正しいのだろう。
でも、ふだん生きている自分たちだって、
いきなり友情とか愛情が壊れてしまい、
どうにもならなくなることなんか
いくらでもあるじゃないですか(って、自分だけ?)。
そういう意味で、本作に込められた暗喩のようなものを
解釈するというよりは、単純に身につまされながら見ていたという。
パードリックを演じたコリン・ファレル。
こんなにいい俳優だったっけ?
ブラピの2割引きみたいなひとだと思ってました(ごめんなさい)。
人は良いけど、どこか鈍重な役柄に好感。
飼っているロバがまた間抜けな感じで愛らしい。
ロバの目って哀しいんだな、と思ってしまうのは、
ブレッソンの「バルタザールどこへ行く」に
毒されたシネフィルの悪癖のせいかもしれぬ。
思わせぶりな登場人物も多く出てきて、
それをいちいち解釈していくのも楽しいけど、
世の中から隔絶されたような、
孤島のロケーションがなんといっても素晴らしい。
殺風景な家並みと、パブのなかで注がれる黒ビール。
ロバだけでなく、馬や犬などの動物のいきいきした感じ。
すぐれた撮影の映画だと思うし、
海の向こうでは、内戦らしき砲声が遠くから聞こえてきて、
これは単純な物語じゃないんだぞという
静かなアピールも悪くない。傑作。