五十旗頭幸男監督「裸のムラ」を見る。
石川県は保守王国と言われるほど、
与党、つまり自民党の影響力の強い地域らしい。
でも実際は、県のトップからは
想像できないぐらい人々の価値観は
どんどん多様化してきているわけで。
時代は着実に変わっているのに、変わろうとしない、
あるいは変われないものを見せつけてくるドキュメント。
7期27年もの長きにわたって
石川県知事を務めてきた谷本正憲知事の
いかにも尊大で権力者然とした
振る舞いをひたすら追いかけるカメラ。
地元の人からしたら、新幹線を通してくれた人だし、
県の発展に寄与してきた功労者なのだろう。
その谷本知事から、馳浩氏に権力が移され、
自民党王国が引き継がれていく様子も事細かに説明される。
なんかそういうのって、様式美だなあと思う(褒めてません)。
県のトップのあまりの保守ぶりというか、
相変わらずのパターナリズムがまん延しているなか、
ムスリムの一家と、クルマで移動しながら生活や仕事をする
バンフライヤーと呼ばれる人たちの姿が交互に描かれる。
市井の人々は多様性を増しているのに、
ほぼ無視された存在としか見られない。
ムスリム一家のティーンエージャーの娘に
自己のアイデンティティについて
インタビューをしようとして、拒絶される場面が印象的だ。
多様性を強調するために、そうした場面を撮ろうとして
あえなく失敗するところをカットせずちゃんと見せるところ。
権力者が悪で、マイノリティーの女の子が善、という
わかりやすい図式を見せないところに監督の正直さというか
誠実さがうかがわれる。
その五十旗頭監督は前作「はりぼて」でも、
富山市議会の腐敗ぶりを追いかけ、それが結果的に
コメディのようにしか見えなくなる様子を描いていた。
変われない、変わりたくない人たちに
怒りの目を向けるのもいいだろう。でもああいう人たちって、
どこか滑稽な価値観のなかで生きてるんだなと思ったりする。
笑える映画だ。でもどこか不健全な笑いが体の奥底から
じわじわと漏れ出てくるような、そんな気持ち悪さもある。