「ミルクです」
あんちゃんはそう言って、
洗面器にいっぱいの白濁した液体を
どーっと湯船に入れてきたのです。
ここは仕事場と自宅を往復する路線の
途中駅にある銭湯。たまに下車して入りにいくのを
楽しみにしているというか。今夜はそれほど寒くないので、
なにはなくとも行くべきだろう、と。
湯船のひとつが「変わり湯」で、
毎週、いろんな種類の湯が楽しめるのがこの銭湯の売り。
えらく白濁した湯船があるかと思ったら、
「ミルク湯」らしい。ほお。
ミルク香料による甘い香りと、3つの保湿成分を配合しているので、
お風呂上がりにお肌がしっとりするらしい。
それはいいかも、と思いながら
湯船につかっていた。すると従業員のあんちゃんが、
まるで鍋物に割り下を付け足すように、
それはそれは濃厚そうなミルク香料をどぼどぼと
湯船に入れてきたからたまらない。
白濁した湯がさらに白濁し、
乳製品の匂いが心と身体に染み渡ってくる。
湯船に入っている人は5人。
若者風が2人。外国人観光客風が2人。
そしてやさぐれたおっさん(自分)が1人で、
全員が恍惚の表情を浮かべていたという。
あまりの白濁ぶりと、甘ったるい湯気がなんとも背徳的。
このやさぐれたお肌がしっとりするのかしら。
と、にやけるも、しっとりしてどうするのだ。と自問自答。