高橋久美子「いっぴき」(ちくま文庫)を読む。
チャットモンチーの元ドラマーで、
現在は作詞家や絵本作家など、
さまざまな顔を見せている高橋さんのエッセイ集。
なんという気持ちよさだろう。まっすぐな筆致と
的確な言葉づかいがびしびしと伝わってきて、
読み進めていくうちに背筋がぴんと伸びてきたという。
チャットモンチーを脱退してからの
約6年のあいだに書かれたエッセイ。
家族が大好きで、三姉妹の真ん中で、
学級委員とかやるタイプで、
音楽に目ざめ、中高では吹奏楽部に明け暮れ、
大学では軽音学部で、ワゴン車を乗り回しながら、
まっすぐ生きてきた高橋さんの心の動きが
だんだんわかってくる。まっすぐだから疲れたり
心が折れるたりするときもあるだろうけど、一点突破で
青春を駆け抜けているところが、なんとも眩しい。
自分のような死にかけのおっさんでも、
ちょっと突っ走ってみようか(死ぬけど)という気にさせる文章。
一生懸命、歯を食いしばって
言葉を発してきた人だということがわかる。
それはチャットモンチーで「シャングリラ」「ハナノユメ」
「ヒラヒラヒラク秘密ノ扉」などの歌詞を書いた人だから
本書を読まなくてもわかることではあるけれど。
金言がたくさんある。
大学時代の無為な生活を振り返って、
人生において、何の糧にもならなかったことをたくさんしたなあ。でも、ただ一つ言えるのは、無意味だったと言えるのは、やってみたからだ。やってみたことの中で、意味があって人生の糧になったこともたくさんある。その残りカスみたいに私の中のゴミ箱に溜まっていく出来事。そういう奴らほど、どうしたことか強烈な存在感を放ってくる。
詩作については、
言葉は、花束にもナイフにもなる。だからこそ、私達のように言葉を生業とする人間はその面白さと危うさを伝えなければならない。何となくコンビニから流れる私の歌詞が、誰かの明日を作るのかもしれないという使命はいつも私の中にある。
バンドを脱退して一人になった自分について、
人間は必ず前に進まなければいけないことになっている。歌詞でも何でも「新しい未来」とか「前に進もう」とか歌いがちだけれど、それだけが正解ではないのではないか。一瞬の燃えるような情熱を胸に秘めて生きていくだけでよしにしてくれないか。
本書の解説はバンド仲間だった橋本絵莉子さん。
高橋さんが黙々と書いてきたことへの
素晴らしい返歌となっている。