内澤旬子「着せる女」(本の雑誌社)を読む。
お決まりのスーツしか着ないおっさんたちを
銀座や六本木にある専門店に連れて行き、
その人の体型やキャラクターに合ったスーツを
あつらえようとする本。内澤さんの本は
おおむね読んでいるので、本書を買ったはいいけれど、
ずっと積ん読のままで、スーツとは
てんで縁のない自分が読んでもいいものか。
と思いつつ読み進めていったら、止まらなくなったという。
いや、そりゃ。知ってますよ。
ダンヒルとかバーバリーとか五大陸とか。
名前だけですけどね。一生縁がないと思い込んでますから。
でも本書ではスーツブランドのおすすめとして
「ニール・バレット、遊び出すならラフ・シモンズ、
シャツは絶対トム・フォード」と話す
いとうせいこうさんの言葉など呪文にしか聞こえません。
ともあれ、著者の内澤さんは、
その人の体型に合ったスーツを着ている男性が
日本には恐ろしく少ないと嘆く。
みんな吊るしのスーツで適当に着つぶすだけで、
なんと勿体ないことをしているのだろう、というのが
本書を書く動機だったと語られる。
つまり、若者でもおっさんでも
太っていても痩せていても、背が高くても低くても
その人にちゃんと合ったものを着るだけで
真っ当に見えるということらしい。
そうなると吊るしのスーツでなく
オーダーメードになるのかと戦々恐々しつつも、
吊るしでも何とかなる場合があるという例も示される。
内澤さんの知り合いの作家や編集者を
連れて行くお店のスーツソムリエの蘊蓄がまた面白い。
自分もスーツ、というかネクタイを締めることも滅多にない。
冠婚葬祭だけというか。最近は「葬」ばっかりですけどね。
って関係ないか。
正直、このままずっとファストファッションを着て
死んでいくと思っていたけれど、少しだけ思い直そうかな。
そういう意味ではとても有意義な読書体験。