スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第四部定理五五&創造された事物とされない事物

2016-08-04 19:14:02 | 哲学
 スピノザは第四部定理五七備考で,自卑的な人間に最も近いのは高慢な人間であるといいました。このことを『エチカ』の定理の中で裏付けるなら,第四部定理五五を援用するのが最適だと思われます。
                                     
 「最大の高慢あるいは最大の自卑は自己に関する最大の無知である」。
 スピノザはこの定理にきちんとした証明を与えていません。単に高慢を定義した第三部諸感情の定義二八と自卑を定義した第三部諸感情の定義二九から明白だといっているだけです。
 高慢というのは自分自身について正当以上に評価する感情であり,自卑というのは自分自身について正当以下に感じる感情のことでした。それら各々の感情がどのような起成原因をもっているのかということを別にして,これらの感情には,自分自身について正当に評価していないという共通項があります。この共通項のことを,第四部定理五五ではスピノザは自分自身に対する無知といい換えたのです。
 自分自身を正当に評価しないということは,その人間の精神のうちで必然的に発生します。これは第一部公理三から明らかです。したがって,ある人間が自分を正当に評価しないということと,その人間が自分を正当に評価することができないということは同じことです。各々の感情の定義からは自分を正当に評価しないという意味合いの方が強く感じられ,無知といういい回しからは自分を正当に評価できないという意味合いの方が強く感じられるかもしれません。ですがそれは同じことなのですから,スピノザがしたようないい換えが実際に可能なのです。
 定理の方は,最大の高慢と最大の自卑が最大の無知といういわれ方になっています。ですが高慢と自卑の共通性を考えるならば,それが最大であるか最大でないかを考慮する必要はないと僕は考えます。最大であろうとなかろうと,それが自己についての無知であることには何ら変わりはないからです。

 『知性改善論Tractatus de Intellectus Emendatione』で示されている定義の条件は,創造された事物を定義する場合と,創造されない事物を定義する場合に分けられています。『エチカ』でいえばこれは第一部公理一で現れる分類です。すなわちほかのもののうちにあるものを定義する場合と,それ自身のうちにあるものを定義する場合の分類といえます。あるいは所産的自然Natura Naturataに属するものを定義する場合と,能産的自然Natura Naturansに属するものを定義する場合の分類といえるでしょう。
 スピノザはこれ以外のパターンには何も言及していません。第一部公理一の分類がこの分類に妥当するなら,ほかには何も言及しないでよいと思われるかもしれませんが,もしスピノザがこの分類によって,何かが定義されるすべての場合について説明できていると判断していたなら,僕はスピノザは誤りを犯していたと解します。何かが定義される場合には,それが被造物であるか被造物でないかを判断できない場合があり得ると僕は考えるからです。
 たとえば,第二部定義二は本性essentiaを定義しています。本性というのは必ず何かの本性であることがこの定義から理解できます。もしもそれが神の本性であるならそれは被造物ではありません。ですが人間の本性であるならそれは被造物です。ですから本性をそれ自体で一般に定義しようとするなら,それは被造物の定義であるとも被造物の定義でないとも確定できないと僕は考えるのです。
 同じように,第三部定義二では能動actioが定義されています。これもそれを神の能動と解するなら,第一部定理三四からしてこれを被造物と考えることはできません。しかし人間の精神の能動と解するなら,たとえば第二部定理九によってそれは被造物であるとみなされなければならないと僕は考えます。ですから能動を一般的に定義するなら,それは被造物の定義であるとも被造物の定義でないとも決定できないと僕は考えるのです。
 『エチカ』の中にはほかにも同様の定義があります。またこれは定義の一般論なので,『エチカ』では定義されていないけれども定義することが可能なものまで含めれば,そうしたものがほかにも出てくるでしょう。なので僕はこの規定が不十分と考えるのです。

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