スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第三部定理三五&自己原因と起成原因

2014-06-27 19:20:33 | 哲学
 第三部定理三二は,『こころ』の先生がKに対してとった行動の理由をうまく説明しているといえます。『エチカ』には手記に書かれた先生の行動をうまく説明し得る定理がほかにもあります。そのひとつが第三部定理三五です。
 「人はもし自分の愛するものが自分のこれまで独り占めにしていたと同じの,あるいはより堅密な愛情の絆によって他人と結合することを表象するならば,愛するもの自身に対しては憎しみを感じ,またその他人をねたむであろう」。
 この心情のダイナミズムは,先生のお嬢さんに対する心の揺れと,Kに対する心の動きの両方を説明します。確かに『こころ』のテクストを読む限り,先生がお嬢さんを憎むに至ったとはいえないと思うかもしれません。しかしスピノザのいう憎しみは,第三部諸感情の定義七に説明される受動です。したがって先生がお嬢さんを表象することによって悲しみに刺激されるなら,先生はお嬢さんを憎んでいることになります。これでみれば先生がお嬢さんを憎んだということは,『こころ』のテクストからも明らかだといえると思います。
 一方,ねたみは第三部諸感情の定義二三で示されている通り,憎しみの一種です。そしてこの種の心情を先生がKに対して抱いたということは,否定のしようがない事実であったといえるでしょう。
 スピノザはねたみと嫉妬を分けます。ねたみがinvidiaで,嫉妬はzelotypiaです。invidiaが感情であるのに対し,zelotypiaは心情の動揺のひとつであるとされています。そしてそのスピノザの説明からする限り,僕はzelotypiaというのは嫉妬というよりやきもちということばでイメージされる心情により近いと考えています。Kの観念を伴ったお嬢さんに対する愛と憎しみの間の心情の動揺が先生に生じたことも,また間違いないといえるでしょう。
 スピノザの哲学によって夏目漱石の小説がうまく説明できるといえます。しかし他面からいえばこれは,夏目漱石には,スピノザが示したような定理がよく分かっていたということでもあります。

 第一部定理七は実体が自己原因であることへの言及です。第一部定理八備考二のテクストは,そのことを受けています。したがってそこでスピノザが実体の様態的変状modificatioで示そうと意図していたのは,それが存在するためにそれ自身の外部に起成原因を要するもののことであり,実体自身によって示そうと企てていたのは,それが存在するためにそれ自身の外部に依拠しないもの,すなわち自己原因のことであると解するのが妥当です。第一部公理一の意味から,前者は様態を意味し,後者は実体を意味するのですから,確かに様態と実体の相違の言及であるとみるのは間違っているとはいえませんが,それはあくまでも第一部公理一の意味を前提とした上でです。だから僕はこれを実体と様態の相違と解釈するのは,半分しか正確ではないといったのです。
 このテクストは,僕が同じcausa efficiensの訳語である作出原因と起成原因を概念として分けることの根拠にもなります。なぜならここでスピノザがいっていることを正確に理解する限り,自己原因は起成原因の一種ではなく,自己原因と起成原因が作出原因の種類であるということが含まれていると考えられるからです。
 このことはとりわけテクストの後半部分から明らかです。そこでは要するに,実体のmodificatioに起成原因があるのを見て,実体にも起成原因が必要であると考えるようになるという主旨のことがいわれていると理解できるからです。それに対してスピノザは,実体は起成原因を必要とはしない自己原因であると主張しているのです。これでみれば分かるように,スピノザはcausa efficiensと自己原因causa suiとを,原因として明確に分類していることになります。したがってそれら各々がどのような原因であるのかということを考慮に入れなかったとしても,これらふたつの概念は,スピノザの哲学を理解する上では分けておくこと,とくにcausa suiをcausa efficiensの一種として理解しないようにする注意が必要とされるのです。
 なおかつ自己原因と原因の関係は,causa efficiensこそcausa suiの一種として認識する方が正確な理解なのですが,これについてはすでに説明してありますから,ここでは繰り返しません。

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